連載小説 新


    14

長い取り調べの後、曜子は解放された。
落ち着きを取り戻し、刑務所を後にすると、あらためて宇山との面会を思い出した。宇山のしていることはまるで理にかなっていない。一方で曜子に宣託された自分への予言を頑なに守ろうとし、一方で曜子の未来を運命に委ねるべく解放する。なにか曜子に罰を与えているようにも、救済しているようにも思えた。
曜子はなんとか品川駅までたどり着き、新幹線に乗り込んだ。日は既に暮れていた。日の落ちた窓ガラスの向こうに曜子自身が映し出された。曜子は宇山を恨んではいない、慈しんでもいない、そうもう一度確認した。その上で、明日警察に行こう、そしてスバルの死についてもう一度捜査するよう頼んでみようと決めた。警察はおかしな顔をするかもしれない。それでもいい、自分のためにもスバルのためにもそうしなければならないと思った。
ごうっと窓が鳴った。トンネルに入ったのだった。ふと、曜子は思いついた。鞄から手帳を出し、白紙のページを一枚破った。宇山に宛て手紙を書こうと思いついたのだった。
『私はバーを開きます。何年かかるかわからないけれど、あなたもよく知る『アイス』というバーがあった場所に、確実に私はバーを開きます。そう決意すると、三年後、あの場所で、カウンターの内側に立っている自分の姿がはっきりと見えます。カウンターには六脚のファネットチェアが置いてあります。そして、あなたは私のバーに来ます。私はあなたと一夜を共にします。これは決して予知や予言の類ではありません。誰にも、あなた自身にも操ることのできない意思のようなものです。私達は、お互いの未来を翻弄した者同士です。でも、意思によって決めるのならば、翻弄された未来も報われるような気がしてきませんか』
そこまで書くと、曜子は窓に頭をよせ思案を巡らせた。まずはファネットチェアを探すところから始めよう、それから一刻も早く『アイス』の跡地に手をつけよう、酒の作り方も習わなければならない、そうだ、『アトリエ』のバーテンダーに教えてもらおう、ぜひ、そうするべきだ、曜子の思案は新幹線を降りても尽きなかった。


(おわり)



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