連載小説 新


    13

 宇山との面会を果たすまで、曜子は長い時間を待たなければならなかった。
 面会許可を得るためには被収容者が収容されている刑務所まで直接出向いて、手続きをしなければならなかった。曜子は電車を乗り継ぎ、宇山が収監されている東京の刑務所まで赴いた。刑務官に受刑者との関係や面会理由を根掘り葉掘り尋ねられ、曜子は閉口した。まさか、占いを授けた相手です、その占い結果が当たったので今の気持ちを聞きにきましたとも言えず、もっともらしい理由を作るのに苦労した。宇山は要注意人物らしかった。刑務官たちも面会許可には相当の気を配っているらしく、かつて事故をした時に助けたお礼を伝えに来たという苦しい言い訳をつける曜子に、彼らは許可を与えてもいい理由を必死に探そうとしているかのようだった。ようやく許可通知が届いたのは、申請を終え自宅に戻ってから三ヶ月も経った後だった。病院で身体から切り離された子宮の消滅を確認してから、二回目の冬が過ぎようとしていた。
 曜子は再び新幹線に乗った。座席に収まり、車列が走り出すと、自分がこれからすることが正しいのかどうか曜子は不安になった。面会許可を待つ長い時間が、曜子の宇山に会いに行く目的とその正当性への自信をゆっくりと危ういものにしていた。曜子には宇山と会って話したいことがあった。それがただの自分勝手な衝動なのかもしれないと東京へ向っていることを悔やみそうになった。
 列車がトンネルに入った。曜子は窓ガラスに映る自分自身の顔を見つめた。正当性があろうとなかろうと、どのみち自分はガラス越しに宇山と会い、会話を交わすだろうと、そう観念した。
 予知能力を失って一年後の冬、宇山は曜子が予知した通り、手下の一人を側近に命じ殺させた。警察たちはあらかじめ宇山をマークしていたらしく、その夜のうちに殺人教唆のかどで宇山を逮捕した。宇山を逮捕した警察は余罪の追及を始めた。十以上もの罪状について宇山は日夜聴取を受けたが、自分に関わること以外は巧妙にそして頑なに口を割らなかった。起訴可能と検察が判断したのは、幾多の罪状のうち、五つのみだった。裁判は迅速に行われた。すぐに宇山に禁固刑が執行された。若いころ詐欺罪で一度、恐喝罪で二度起訴されていた宇山は、再犯者として執行猶予もなく東京の府中刑務所に収監された。曜子が予知能力を失って一年半後のことだった。
 日常に戻る努力を始め、ようやく自宅近くの町工場で仕事を始めた曜子の元にある男が訪ねてきた。曜子はその男をよく覚えていた。宇山と最後の会話を交わすために乗せられた車の運転手だった。
 職場の工員たちは、曜子を訪ねてきた高級そうなスーツに身を包んだ運転手に好奇の目を送った。表に出てきた曜子を見て工員の一人は、恋人かと冷やかしたが、顔色一つ変えず「違います」と答えた曜子を見て、逆に口をつぐんだ。
 「お時間とらせて申し訳ありません」
 そう言いながら、運転手は工員たちに会話を聞かれぬよう車の中へ入るよう曜子を促した。運転席と助手席に並んで座ると、運転手は「宇山の代理で来ました」と話しだした。
 その男は直接部下殺しに手を下した人間のはずだった。しかし、彼は自分がこうして宇山の代理業を今も行えるのは、宇山のおかげだと話した。事情聴取の際、宇山は、自分が不在の間も仕事が滞ることのないように、巧みな証言で別の実行犯を立てた。そうしてこの運転手を後見としたのだった。
 彼は宇山の逮捕起訴から刑の執行までの経緯を事務的に曜子に伝えた。
 「宇山さんは、この結果を避けられたはずです。どうしてそうしなかったのでしょうか」
 「わかりません。自分は聞いていませんから、答えようがありません」
 宇山は逮捕を回避できるはずだった。能動的な未来であるはずだったし、充分に対策を立てることが彼にはできたはずだった。だが、宇山は、曜子の見た未来を頑なに守るようにして、自ら予言の通りに行動した。
 「伝言としては、経過を伝えろとのことだけです。自分の仕事は以上です。それでは、お時間を取らせました。失礼します」
 毅然と言い切った運転手はそれ以上何か聞いても決して口を開きそうになかった。仕方なく曜子は車を降り工場に戻った。製造ラインに並ぶ機械がプラスチック製品を次々に吐きだし、曜子はそれを箱に詰めていった。それが何に使われるものか、曜子は知らなかったが、知らなくても一向に困らなかった。ただ、何かの役に立つものを誰かに届けるために箱詰めしている行為そのものが曜子には大事なことに思えた。今している行為が役立つことだという実感を曜子に与えてくれるだけで充分だった。
 横に立つ仲間の工員が我慢できない様子で「さっきの人だれ?」と曜子に聞いた。
 「昔、お世話になった人。共通の知り合いが、亡くなったの。だから、わざわざ報告に来てくれたの」
 そう言うと、工員は妙に納得し、それきり前を向いて仕事に集中した。
 曜子はそれまでに起きた歯車のかみ合わない日々の出来事を一掃し、日常を取り戻すため、自宅から徒歩で通える町工場で働き、電車にも乗らず、繁華街にも行かず、バー『アトリエ』のある裏街にも行かず、人と出来るだけ触れあわず、日々を平穏に暮らしていたはずだった。だが、運転手が訪ねて来て、再び地に足がつかないような、歯車のかみ合わない日々へと放り出されたような気になった。
 平穏な暮らしなどというものは、なにか小さなきっかけですぐに崩れ落ち、霧散してしまうことを曜子はよく理解していた。だから人は一生懸命に今の自分の暮らしにすがろうと努めるものだとも思った。だが、回復した曜子の日常へ宇山がそっと滑り込ませた誘惑にまんまとのってしまうように、その日、曜子は夜の街へと出向いた。『アトリエ』に行けば、もしかすれば宇山の息のかかった人物に会えるかもしれない、そんな期待でカウンターに落ち着いた。しかし、結局、それらしい人物は閉店まで一人も出入りしなかった。代わりに、曜子はそこで再びムギと出会ったのだった。

 新横浜を過ぎると新幹線は速度を落とした。宇山との面会には充分間に合う時間だった。充分過ぎて、時間を持て余しそうだった。電車を乗り換え、曜子は東京の西の方へと移動した。最寄り駅で降りるとすぐに宇山が収容されている刑務所は見えた。北に延びるフェンスが延々と葉を落とした木々を囲っていた。やがてフェンスは高い塀に代わった。塀に沿って歩きながら時計を見ると、面会まで一時間も残っていた。急にフェンスがくぼんで、だだっ広い駐車場が現れた。そこが刑務所の入り口だった。身長の二倍はある鉄の二枚扉の脇に警備員が立っていた。曜子は仕方なく少し離れた生垣の前に立ち、時間を潰そうと思った。警備員が不意に曜子に近づいた。不審そうな目で、「なにかご用ですか?」と訊ねた。
 「今日、受刑者の方と面会する予定なんですが、少し早く着いてしまって。ここで待たせてもらってもいいですか?」
 それを聞くと、警備員は内部となにやら連絡をとり、曜子を通用口の中へ招いた。待合室に案内され、曜子は黒いビニールの貼られたベンチに座り、面会を待った。

 『アトリエ』の常連となっていたムギは、曜子を見つけると血相を変え、隣の席にやってきて怒ったように喋りはじめた。
 「なにしてたんだ、連絡しようにも、携帯も通じない、家の電話も通じない。今までなにしてたんだよ」
 返答に困り「普通に暮らしてた」と曜子が呟くと、ため息交じりにムギが言った。
 「あのな、スバルが死んだよ」
 そして、そのことをなんとかして曜子に伝えたかったが、伝える術がなかったとムギは憤った。そこまで伝えたいのなら、あの運転手のように、曜子の現在を調べ、家に来るなり、工場に来るなりできたはずだ。ムギにとっての報告の限界はしょせん電話連絡だということかと、曜子は思った。『スバルが死んだ』、そのことについて曜子はうまく頭が働かなかったのだった。
 「そう、スバルが死んだの」
 「そうだよ、四ヶ月前、自殺だよ」
 曜子はすぐにおかしいと思った。スバルは自殺をする人間ではない、他のどんな自殺をしそうにない心の強い人間が自殺しようと、スバルだけは自殺をしないという確信が曜子にはあった。すぐに曜子は宇山を思い浮かべた。
 「あの後、スバルに会った? 私とムギがここで会った後」
 「会ってない。でも、友達連中の噂だけは聞いてた。お前、スバルと会ったんだろ、その夜からな、あいつ、自分のバーも閉めがちになって、どこでなにしてるかわからないんだって、そんな噂だった」
 「なにしてるかわからなかった?」
 「ああ、今のお前と一緒だよ。連絡も取れずにさ」
 「そう」
 スバルの死に宇山が関わっている、曜子の確信が次第に深まって行った。
 「遺書が見つかったんだと」
 「遺書?」
 「ああ、俺、見せてもらったんだ。ご両親に」
 「なんて書いてあったか覚えてる?」
 「忘れられないよ。一言、論理の敗北、それだけ。なんか、よくわからないだろ」
 「そうね」
 スバルが数年かけ手に入れた『アイス』を放っておいてまでしなくてはならなかったこと、それは曜子と宇山に関係のあることに思えてならなかった。
 曜子は、ムギと共に『アトリエ』を出た。そして、駅で彼と別れると、その足で再び『アトリエ』を訪れた。そのまま閉店まで待つつもりでカウンターに座っていると、バーテンダーは気を効かせ、客を早めに返し店を閉めてくれた。
 「お久しぶりですね」
 その日初めてバーテンダーと会話を交わしたことに気づいた。
 「本当に」
 「なにか、役に立てますか?」
 「いいですか?」
 「あなたの不利益になるようなことは、避けたいですがね」
 そう言うバーテンダーに曜子は、あの警官の居場所を聞いた。
 「答えづらいですね」
 「どうしてですか」
 「彼はもう警官ではありませんし。というか、なぜ今さら彼に会いたいなんて思うんですか?」
 「聞こえたと思います。ムギ君と共通の友人が死にました」
 「自殺なんでしょう?」
 「ムギ君はそう言ってますね」
 「違うんですか?」
 「わかりません。でも、違うような気がします」
 「あなたの、その巫女的な直観ってやつですか?」
 「占いはもう出来ないんです。そういうことじゃなく、なんというか、長年つきあった人間が自殺するかしないかくらい、わかるじゃないですか。そういった類の勘です。その勘によると、スバルの死について警官はなにか知ってると思うの」
 「元、警官ね」
 「ああ」
 バーテンダーは、それでも元警官の居所を喋ることを渋り続けた。曜子は食い下がった。
 「迷惑はかけません、お願いします」
 「私に迷惑がかかるから拒んでるとお思いですか? 違いますよ。あなたのためにならないから、私は拒んでるんです」
 「それじゃ、私、先にすすめません」
 やがて観念したようにバーテンダーは表に出て電話をかけ始めた。戻って来ると、「あなたが元警官に会いに行くというのは、やはりよろしくないと思います。だから、今夜、ここで、お話なさい。私はここに立ち続けます、そしてあなたのことを見守ります。それでいいですね」
 「呼んでくれたんですね」
 「ええ、しばらくしたら、ここに来るそうです」
 と言ってバーテンダーは曜子にアラウンド・ザ・ワールドを作った。
 それを傾け、曜子は短い幸福に浸った。惜しむように最後の一口を飲み干すと、元警官が姿を現した。
 「あんたか」
 元警官が曜子を見るなり、そう言った。
 「手短にうかがいたいのですが、スバルという青年をご存じですね」
 その名を聞くと、短く舌打ちが聞こえた。
 「面倒はごめんだね」
 元警官が帰ろうとするのを無理矢理引きとめ、「教えてください」と、曜子が懇願した。
 「スバルは、殺されたんじゃないですか?」
 「自殺だよ。それが事実だ。遺書もあっただろ」
 「なぜ、あなたが遺書があるって知ってるの」
 元警官は再び舌打ちをした。
 曜子の手を解くと、元警官は椅子に腰を降ろした。
 「自殺だからな、それだけはよく覚えておいてもらいたい。あの、スバルという男はあんたのことについて知りたがってた。父親が事故で死に、母親を自殺で亡くし、子宮を摘出して占い師に転身したあんたが何をしていたのかをな。それこそ詳細に、事細かに、誰に何を言ったかまで。研究論文でも書きたいのかってくらいにな。やがて、あいつは占われた人間にまで調査の手を伸ばした。どんなバックグランドを持ち、なにを占われ、それにどう対処したか。たまったもんじゃないよ。ただでさえ、表に出たがらないやからばかりだ。それをただのバーテンに根掘り葉掘りほじくり返されるんだからな。でも、調べ方が半端じゃなかった。ただのバーテンどころの騒ぎじゃない。で、あいつは最後に占われた男にたどりついた。あんたに占いを禁じた男だよ。あとは、想像できるだろ」
 言い終わると立ち上がり、そそくさと『アトリエ』から去って行った。曜子は警官を止めるのも忘れ、じっとスバルと最後に会った夜のことを思い出していた。
 「私が望んだ通り、スバルに非論理の勝利を突きつけられたわけか」
 それは心の中で言ったつもりが、小さなつぶやきとなった。自分にしか聞こえないつぶやきのはずだったが、バーテンダーは二杯目のカクテルを用意し、「あなたは、占い師としての日々を忘れるべきじゃないですか」と、曜子に伝えた。
   刑務所の待合室は冷えた。手をこすり、膝をもんだ。中はもっと寒いのだろうかと曜子は思った。宇山に特段恨みのようなものはなかった。といって慈しみのようなものもない。移動の時間、そして面会を待つこの時間が揺らいでいた自信のようなものをもう一度確かなものにしてくれていた。曜子は、宇山になぜかを聞けばいいのだ。それだけだ。
 やがて刑務官が曜子を呼び、面会室へと案内した。アクリル板でこちらと向こうに仕切られた面会室は予想以上に狭かった。暖房のよく効いた狭い部屋のこちら側に曜子は腰を降ろした。やがて刑務官に付き添われ宇山が姿を現した。向こう側とこちら側に一人ずつ刑務官が立ち、環視の中で二人が面と向かった。
 「あなたでしたか。名前を聞いただけじゃ、ピンときませんでした」
 ウソだ、目の前で笑みを唇に浮かべながらそう言う宇山を見てすぐに曜子はわかった。代わりに、「あの時は助けていただいてありがとうございました」と曜子は刑務官にそっと視線を流しそう言った。宇山は、考えを整理するとすぐに理解したようで、まっすぐ曜子を見つめたまま「いえ、とんでもない、当然のことをしたまでです」と、答えた。
 防犯カメラが二台、曜子と宇山を映していた。おそらく会話もモニターに伝わっているだろう。しかし、沈黙していてもらちが明かない。曜子は切り出した。
 「あなたなら避けられたはずです。なぜですか?」
 できるだけ刑務官に内容を悟られぬよう言葉を選びながら続けねばならないと曜子は思った。
 「別に、あなたの予言どおりに従ったわけじゃない。未来を知っているからと言って、避けようとしたり、対策したりすることが無駄だとわかっただけです」
 「他にも見てきたからですか?」
 「ええ、あのスポーツ選手もそうです。他にもあなたが見てあげた数々の人間の顛末を私はそばで拝見しました。無様にあらがった挙句、予言より悪くなってしまった人間もいる」
 刑務官二人はこちらとあちらでお互い顔を見合わせ、会話を制するべきかどうか迷っている様子だった。だが、とりとめのない曜子と宇山のやりとりをどう制しすればいいか決めかねているようだった。
 「でも、避けられる未来と避けられない未来があると」
 「能動的か否かというやつですか。水面に立つさざ波程度じゃ運命は変わりませんよ」
 「だからあきらめの境地で、私の予言をなぞったと?」
 「違います。別にあきらめちゃいない。それになぞったのでもない。ただ、当然のことを自分の心情に従って進んだだけです。たしかにその先にあなたの言う未来はあった。それでいいじゃありませんか」
 「わかりました。じゃあ、あの言葉の真意をもう一度聞かせてください」
 「なんでしたっけ、話した言葉なら沢山あって、どれがどれだか」
 「私の幻が未来を孕んで、占いするごとに出産していた、その幻がなくなった後、未来もまた別の可能性に向って動き出したんじゃないかって」
 溜らず刑務官が口を挟んだ。
 「符丁は禁止だぞ」
 すると宇山がそれを制した。
 「すいません。これは符丁ではありません。気に障ったら申し訳ありません。それに、これが何かの符丁だとしても、私の利益になるようなことはないはずです。それは中へ戻って数日私のことを注意深く見ていていただければ分るはずです」
 「いいですか? 続けても」
 こちら側の刑務官に曜子は許可を求めた。仕方なさそうに刑務官が頷いた。
 「ようは、あなたの子宮が無くなった今、かつての予言は曖昧になったということです。果たされた予言は仕方ないにしても、いまだ果たされぬ予言は子宮の消滅とともに予言ではなくなったということです。あなたもそんなふうに理解してるんじゃないですか?」
 「はい、私はそのように理解しました」
 宇山は笑った。
 「じゃあ、結果は出てるじゃないですか」
 そして、笑いながら、こう言った。
 「あなたは自分の未来を見ませんでしたか?」
 曜子は思いだした。それは宇山に占いを禁じられ、部屋にこもっている時に見た自分の遠い未来だ。自分の未来に、スバルが含まれていた。『アイス』のカウンターの内側にスバルと二人して立っているというあのくすぐったいような不思議な光景だ。叶ってほしいような、叶ってほしくないような未来だった。そんな未来が必ずやってくるとわかったから、わざわざスバルの元まで押しかけていって、スバルの考えが間違っていることを証明しようとしたのだろうか。それとも、スバルが他人に否応なく感じさせてしまう嫌悪感のようなものを彼から取り去らなければ、自分とスバルの未来はないとでも思ったのだろうか。だが、そのスバルは、死んだ。死んだということはつまりこの先、未来永劫、スバルと関わりを持てないということだ。予言の中で見たスバルと曜子の二人の確かな未来は幻となって、捨てられた子宮とともに燃やされたということだ。
 「あなたは、あたしの予言を反故にするために、スバルを殺したの?」
 刑務官がざわめいた。宇山は、まだ笑っていた。
 「なんのことかな」
 「しらをきらないでよ、あの警官に聞いたの、スバルは私を調べた果てにあなたにたどりついた。だから殺された、違う?」
 「違うね」
 「どう違うの」
 数人刑務官がばらばらっと面会室になだれ込んだ。宇山はすすんで立ち上がった。「待って」と叫ぶ曜子は刑務官にとらえられた。「一体、なにがしたかったのよ。あなた、ねえ、待って、離して、私の未来を返して」
 宇山は刑務官に見守られ扉の向こうへ姿を消した。曜子の叫び声はもはや刑務所の内と外を分かつ壁に遮られ宇山には届かなかった。


(つづく)



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