オヤツ


「ファインディング・ドリー」

みなさんこんにちは。
わたしが映画を観て、気になったセリフを勝手に紹介する「おいしいセリフ」の第6回。
今回の映画はアンドリュー・スタントン、 アンガス・マクレーン監督の『ファインディング・ドリー』です。

2003年に公開され大ヒットしたので皆さんもよくご存じでしょう、カクレクマノミのマーリンが息子のニモを探し大海原を旅した『ファインディング・ニモ』の続編。今回の主人公は前作でマーリンと一緒に旅をしたドリー。なんでもすぐに忘れてしまうドリーが、幼い頃に離れ離れになってしまった両親を探しにいくお話です。

ドリーは自分が生まれた場所の水族館にたどり着き、タコのハンクと出会います。外の世界には危険で嫌な思い出しかないハンクは、外界に出ることを望んでいません。そんなハンクを一緒に外の世界へ連れ出そうとするドリーの誘い文句です。

「人生で一番素敵なことは偶然おこる」

無鉄砲で計画性のないドリーは、何事も恐れず、とりあえず自分のできること、思いついたことをやってみる。それができるドリーだからこそ、怖いことやつらい出来事の先にある素敵なものを知っている。確かにそうなのかもと心打たれるというより、わたしにはちょっと耳が痛いなと思ってしまう台詞でした。
それは、ハンクと同じようにわたしも危険のない安全なところで過ごしたい人間、つまり、休みの日はなるべく誰とも会わず家でゴロゴロしていたいと思ってしまうような人間だからです。(つまり!?)

ドリーの台詞を聞いてふと先日の出来事を思い出しました。
わたしは外出しなければいけない用事があり、重い腰を上げ街に繰り出しました。用事を終え一休みと公園のベンチに腰掛けていると、「ちょっと隣いいかな?」とおじいちゃんがやってきました。
わたしがよほど暇そうに見えたのか「学生さん?」と声をかけてくるおじいちゃん。「いえ」と答えつつ、まだ若く見られている嬉しさと、いや子供っぽく見られているのかという悲しさが入り混じる中、少し面倒だなと思うわたし。そんなことをぼーっと考えていたら、いつの間にかおじいちゃんの自分語りが始まっていました。囲碁を教えているとか、かつて高給取りだったとか、通帳を妻に預けないような夫は出世できないからそんな男とは結婚しちゃいけないとか。「あれ、この話いつ終わる?」と心配になるくらい次から次へと出てくる出てくる。
さらに追い打ちをかける敵が他にもいた。蚊である。わたしはその話を聞いている間、足元をずっと蚊にも攻撃されていて、ものすごく痒くて聞いているどころじゃない。さらにさらに、おじいちゃんの鼻毛がものすごく出ている。全然話に集中できない。だから頭の中は早く帰りたいということしか考えられない。
ボリボリと足を掻きむしって解放してくれアピールをしていたところ、「たくさん蚊にくわれちゃったな」とようやく気付いてくれたおじいちゃん。「ホッ、これでようやく解放される」と思ったら、鞄の中から塗り薬のチューブを取り出し、それをわたしの指に絞り出してくれました……。感謝を述べつつ薬を塗りこみ、諦めて話を聞くことに。
最終的に、かつて高給取りであったおじいちゃんの建てた豪邸をグーグルマップのストリートビューで検索させられ、自分の家を褒められて満足したおじいちゃんは素敵な笑顔で去っていきました。
おじいちゃんと蚊にタカられていた時間は約30分間、ひとりになったわたしは掻きむしった足を見てみると12ヵ所の腫れができていました。
「蚊が刺した12ヵ所 ためにならぬ知らぬじじいの話の対価」
とくだらない短歌を心の中で詠み、ひとりでニヤつきながらわたしも公園を後にしました。
いろいろと書いてしまいましたが、知らないおじいちゃんと話したその時間は思いがけず楽しいものでした。外出先での素敵な偶然です。

偶然の出来事はもちろん偶然起きるものです。でも家の中でじっとしているだけでは起きるはずもありません。外に出るのは面倒くさい。だって、他人と何かしら関わらないといけないし、他人と関わると何かしら煩わしいことが待っている。最近そんなマイナス面にばかり引っ張られていました。誰かと出会うことで、楽しいこと、嬉しいことが起こるのも事実です。
わたしは魚じゃないから、外に出ても外敵に捕食されるという身の危険にさらされるわけでもない。サメに喰われるわけじゃない。面倒くさがらずに家を出て、知らないおじいちゃんに話しかけられる楽しい偶然探しに出かけてみよう。それぐらいはしてみようと思ったよ、ドリー。



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