オヤツ

『グランド・ジョー』

みなさん初めまして。
コギトの新顔デスク、田邉です。
ここでは、わたくし田邉が気になった映画を観て心に残ったセリフを紹介させていただきます。
劇場で一度鑑賞しただけのため、間違っている部分もあるかとは思いますが、温かいお心でご覧いただけると嬉しいです。

記念すべき、第一回目の映画は
デイヴィッド・ゴードン・グリーン監督の『グランド・ジョー』です。
(初回から申し訳ないですが、日本ではDVDスルーとなった作品です……。現在、ヒューマントラストシネマ渋谷で日本未公開作品を集めた企画で劇場公開されています。)

『グランド・ジョー』のあらすじをざっと紹介しますと、舞台はアメリカ南部。前科持ちではあるが、森林伐採業者としてまっとうに働き、周りからも信頼されているジョー(ニコラス・ケイジ)と、働きもせず酒に溺れている父親から暴力を受けながらも母親と妹を養うため仕事に勤しむ少年ゲイリー(タイ・シェリダン)の交流を描いた映画です。

スクリーンの中のニコラス・ケイジ、眉毛が全然八の字じゃない! なんて鋭い眼光。
そして今までに見たことないぐらい、体が、むっちりしている。
う、なんだ、なんだか、強烈に男臭いぞ! ニコラス・ケイジ! カッコいい!と、思ったのも、束の間でした。ジョー、全然、カッコ良くなかったんです。
ある日、突然男に肩口を猟銃で打ち抜かれるジョー。どんな理由で悪党に追い回されているのかと思ったら、バーで痛い目にあわせた奴の逆恨み。ダサい。
その場は事なきを得ますが、数日後に同じバーで逆恨み男と出くわすと、相手にしなければいいものを我慢できずに酒瓶で頭をぶん殴っちゃうジョー。酔っぱらっていたので発端が何だったのかも全く覚えていない。「頼むから、早く警察を呼んで俺を止めてくれ~」と言い残し、車で逃走。で、その後も何故か大人しく捕まらず、警官を挑発し暴行する始末。ダサい。

酒乱の父親から少年を守るニコラス・ケイジを予告映像で見て、勝手にダークヒーロー的な展開を期待したわたしは、少々肩透かしを食らいました。

映画が進むにつれて、男性特有の暴力性、自己崩壊的なところが止まらなくなっていきます。
なんか、男臭くてダサいんです。まるで、グレ始めた中学生の男子のよう……。
わたしが女性だからでしょうか? 理解に苦しむところが多々ありました。
大人なんだから、もっと我慢しなされや!と思ってしまう。
ただ、ジョー自身もわかってはいるけれど、どうしようもできない。
日本でぬくぬくと育ったわたしには到底理解できない、暗いバックグラウンドがそこにはありました。

舞台となっているアメリカ南部。伐採作業が行われる森林。薄汚く陰気臭いバー。娼婦たちがひしめく家。最低限の食料品しか揃わないような商店。そういった環境での貧困層たちの狭い人間関係。その鬱屈さは確かに凄まじい。

ジョーとゲイリーが車を買いに行く場面で、「あ、中古車販売店あるんだ。あ、他にも車がたくさん走ってる。あ、信号あるんだ」と、ようやくああ、ここは存在する街だったのかと、思ったほどです。もう、わたしにとってはある種のファンタジーの世界。
現在の南部もこのような状況なのでしょうか。

秩序や規則が正常に機能しないほど歪み、閉鎖された社会。正しさだけではこの土地では立ち行かない。こんな世界で、真っすぐに生きていける方が異常なのかもしれません。

さて、今回取り上げたいセリフですが、映画前半でジョーが家に居ついている女とゲイリーについて話しているときに出てくるこのセリフです。

「あの子は親に捨てられた子だ。いいようにも悪いようにもなる。」

この場面で女はゲイリーを父親の暴力から救ってあげればとジョーに提案し、ジョーはこのセリフとともにつっぱねます。

本来、子供を守るべき存在である親。その親から見捨てられた存在であるゲイリー。ただでさえ劣悪な環境であるこの地域で、ゲイリーは一人で戦っていかなければいかない。非常に冷たいセリフですが、これは同時に希望が持てるセリフでもありました。

まっとうに仕事に取り組んではいるものの、模範的な大人とは決して言えないジョー。「俺は誰かを守れるほど立派な人間ではない」と葛藤しながらも、自分の身を省みずゲイリーを守ろうとします。
綺麗事だけでは済まないこの世界を知るジョーだからこそ言えるセリフであり、口だけではないジョーのその後の行動によってゲイリーにとっては「いいように」なった、ように思えます。

そんなジョーの姿は、どんなヒーローよりもカッコいい男の姿としてゲイリーの瞳に映っていたのでしょう。
そう考えると、ジョーはやっぱりカッコいいのかもしれませんが、何だかもっと他に解決手段があったような気がしてなりません。もしも、わたしがこんな世界で生まれたらどんな大人になり、どんな方法でゲイリーを助けてあげることができたのか……。
アメリカ南部について悶々と思いを巡らせ、今回はこの辺で失礼いたします。





mail
コギトワークスロゴ