夜学後記第3回


五月に行われた第五回『映画夜学』。
ゲストはクラウドファンディングのプラットフォームを提供する会社『MotionGallery』を立ち上げた大高健志さんです。
大高さんのご好意により、夜学本編の再編集版をお届けしたいと思います。
今回はその前編です。

プロフィール:大高健志(MotionGallery主催)

外資系コンサルティングファームに入社し、主に通信・メディア業界において、事業戦略立案、新規事業立ち上げ支援、マーケティング、オペレーション改善等のプロジェクトに携わる。その後、東京藝術大学大学院に進学し映画製作を学ぶ中で、クリエイティブと資金とのより良い関係性構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。以来600件を超えるプロジェクトの資金調達~実現をサポート。1983年生まれ。

(聞き手:関)

・大学在学中に始めた『MotionGallery』

大高:『MotionGallery』というクラウドファンディングサイトを経営している大高です。よろしくお願いたします。
まずは少し自己紹介から。
そもそも一般大学に通っていたんですが、大学二年生の時に映画がやりたいと思いました。何もわからなかったので美大の大学院に行けば良いのではないかと考えたのですが、親から「映画に金を出さない」となりまして、会社に入り社会人になりました。
外資系の企業で経営コンサルティング会社です。大企業向けの経営戦略立案が仕事でした。それでも映画がやりたかったので、働きながらお金を貯め、会社を辞めて東京藝大の映像研究科というところに入りました。そこまではよかったのですが、そこで初めて日本映画界の状態を目の当たりにし、在学中にクラウドファンディングを始めました。

関:在学中に始められたんですか。

大高:そうです。クラウドファンディング自体が卒論にもなっています。僕が藝大に入ったのはあくまでプロデューサー領域に興味があってのことでした。
芸大の教授陣やゲスト講師に来られた映画人たちから「この業界はこの先未来がないから」という言葉を聞いたり、「このクラスの監督ですら好きに映画を撮れないのか、お金が集まらないのか」と感じさせられるお話しを伺う中で、衝撃を受けました。
映画を勉強しているけれど、この先に未来がないんじゃないかと感じ、映画を作るうえでのお金の集め方を考えないと厳しいと感じるようになりました。
ちょうどその頃、パリの映画学校と交換留学プログラムが始まり、フランスの学生から話を聞きました。彼らにはものすごい余裕があるんです。例えば、日本では十年下積みしてお金を貯めて一本撮って駄目だったら終わりというふうに考えがちです。しかし助成金が手厚いフランスでは少なくとも必ず三本は映画を撮れます。一本目は捨て牌で、三本目にカンヌのコンペにかかればいいという優雅な話を彼らはしている、それを聞いて衝撃を受けました。構造的に太刀打ちできないなと。
日本では助成金が出る時代でもない。ビジネスではない形でお金を集められる仕組みを自分たちで考えないと、本当に作りたい映画を作れないんじゃないかと思い、2011年に始めたんです。
投資や融資のようなビジネスロジックではなく、応援や参加というような文脈でお金を集められないかと考えたのです。
投資はお金を出したことに対してお金が返ってきます。投資という意味では、テレビ局映画と作家性の強い監督の作品のどちらを選ぶかといえば、前者でしょう。
一方、クラウドファンディングはお金で返ってくるのではなく、劇場チケットやエンドクレジットに名前を載せるなどの形で返ってきます。興業的な成功をしようがしまいが返って来るものが同じだと、自分が好きな作品にお金を出す形態に変わるのではないか、フランスのような状況が生まれるのではないか、そうなればいいなという思いで日々運営しています。


・クラウドファンディング指南

関:ちょうど今、小規模の映画を手伝っています。予算が数百万円程度で、最低でもあと二百万円足らない、どうしようという話になりました。協賛で集めようにも、例えばサントリーにお願いして商品は貰えるかもしれないが二百万円貰えるわけではない。配給をつけたとして、今度は出資額の権利を取られる。権利は自分たちのもののままどうにか集められないか、そういえばクラウドファンディングって聞いたことあるなあと思い、大高さんに連絡させて頂きました。大高さんがおっしゃったように、映画製作費の新しい募り方の一つになるのではないかと思い、今、ご一緒にさせていただいています。

大高:流れとしては目標金額を設定し、そこに向けて集めていくという感じです。
まず動画や写真などポスター的ヴィジュアルを用意し、どういうプロジェクトなのかを文章で載せます。自分たちが何を目指し、集めたお金をどう分配するのかを理解してもらい、そこに賛同する方からお金で応援してもらうための文章です。
そしてリターンの設定です。金額の多寡によって提供するものが変わってきます。
五百円では制作レポートがもらえ、三万円だとホームページにエンドクレジットをのせてもらえる、というように金額が高くなると豪華になっていく、この内容と照らし合わせて自分が一番いいなと思う金額で応援してもらって、資金が集まっていく仕組みになっています。
劇場で映画を観る金額は定価が決まっています。その日たまたま観にきた人も物凄く待ち焦がれた人も同じ千八百円という金額でしか表現されません。
その点ファンディングの場合、思い入れの深さの濃淡が金額で表現されます。ここがクラウンドファンディングの良さかなと思っています。
リターンについてですが、実はグッズなどとはあまり相性が良くありません。グッズ作成にコストがかかってしまったり、そもそも応援してくれる方々にあまり喜ばれなかったりします。
それよりはエンドクレジットに名前をのせたり、撮影現場に招待したり、エキストラとして参加してもらったほうが、制作側の一員である感覚が芽生えるので、劇場公開時に応援者たちが宣伝部隊になってくれたり、告知をしたりしてくれることがあります。
単純にお金を出してくれた人というよりは、仲間としてコミュニティーができるというところもファンディングのいいところかなと思っています。

・リターンという考え方

関:最初に大高さんとお話しする前、このリターンと呼ばれているメニューにたとえば有名キャストの握手券などがあった方が賛同者が増えるのかと思っていました。しかし、大高さんから人気商売ではないので、内容を応援したいということの純粋さが重要なんですと言われました。
大高:難しいのは、人気商売的なリターンを作れば、多く集まる可能性もあり得ると思うんですが、それで集めた場合、作品にとって良いのかということが問題です。
人気を目当てに来た人は握手しに来ても映画は観ないと思うんですよ。さっき言ったように、公開の時に宣伝してくれるということも絶対おきない。逆に文句を言う人もたぶん出てくる。それは興業にあまりいい影響ではありません。コアにやる方がむしろ応援団となって、何かしらトラブルがあってもサポートに回ってくれるでしょう。無理やり人気商品をつけるぐらいなら、コアな人たちに応援してもらう方がいいです。コアに騒いでいる人たちを見て、遠くの人たちが、これだけ騒いでいるなら僕らも参加してみようと思ったりする。今は情報が溢れているので、中途半端に媚びを売る発信の仕方より、コアなノリで盛り上がっている方が周囲の反応がいいというのはすごく感じますね。強い思いが詰まったリターンの方が喜ばれるし、変なディスコミニケーションが起こらないと思います。

関:今の我々のサイトでいうと、三万円に設定しているリターンは、役者やスタッフが使っていた台本を提供するというものです。八つ用意したんですが、最初にそれが全部売れました。三万円って結構高いし、売れないんじゃないかと思っていたら、最初にそれが全部売れたので、出す人のマインドって僕らが思っていることと差があるんだなと思いました。

・海外の動向

関:話題は変わりますが、海外では、どのような映画のファンドがあるのでしょうか。

大高:Kickstarter(キックスターター)Indiegogo(インディゴゴー)というのがアメリカの大きなサイトです。ちなみにIndiegogo(インディゴゴー)とうちは提携しています。ただ海外ではゲームやモノ作りの方にお金が集まっているようです。
フランスは助成金があるのであまりやっていないようです。そもそもクラウドファンディングが流行らないほうがいい環境ではあるのかなと思ったりもします。
そもそもクラウドファンディングの走りはアメリカです。ハリウッド的内容にのらないもの、ニューヨーク的な映画を作ろうとするとやっぱりお金が集まらない。そこは日本と同じです。

関:MotionGalleryさんで扱っている映画を海外の方が支援する動きはありますか?

大高:作品によってはありますね。作品や監督に海外のファンがついていること、加えて原発に関する映画などはテーマがテーマなので海外からも応援がきています。


・一番クラウドが必要な映画とは。

参加者:例えば、この先10年のビジョンはありますか? 日本においてクラウドファンディングがどうなれば成功と言えるでしょうか。

大高:あまりタイムラインは考えていないですが、当初からの一貫した目標は三千万規模の映画がクラウドファンディングで苦も無く集められる世界は作りたいという思いがあります。
というのは僕の中で一番好きな映画のライン、そしてクラウドファンディングの一番やらなければいけないのは、二・三千万円ぐらいのミドルバジェットの映画だと思っています。
一億円以上の映画はメジャーがやるでしょう。逆に小規模映画は予算を削ってもなんとか作ることになる。今までもこれからも映画文化を作るのはミドルバジェットの映画だと思います。チャレンジがあり、クリエイティブの高いものというのが一番重要だなと僕は思っているんですが、ビジネス的にそれが一番難しい。
極論ですが、別に中身がどうであれ、売れている原作権を取り企画を立てればお金を集められます。しかし、例えばオリジナル脚本で、それなりの役者さんもでるんだけど、監督とかプロデューサーが好きに作りたい、それで予算が三千万というラインが一番誰もお金をくれない。でも、そここそみんなが一番やりたい部分だし、重要なところなので、クラウドファンディングで苦も無く集められたらある種のゴールだと僕は思っています。それを目標に6年やっているんですけどまだまだ道半ばという感じです。

・ファンドの実践

参加者:完成させるために支援を募集すると思うのですが、例えば完成しなかったらどうなるのでしょう。ルールはあるのでしょうか。

大高:あくまでうちのサイトは関係なく当事者同士の責任で解決してくださいということにしています。
返金依頼があれば制作陣の責任のもとに返金してくださいというものです。仮に要請しても返金してもらえないかもしれません。そもそも完成保証をしてるわけではないというのも元々うたっています。
当たり前ですが、いくら出したんだからと、クリエイティブに関して文句や口出しをしたり、そのことに対して不服に感じた場合の返金要請は受け付けません。
約束したリターンを実行しなかったときに、返金依頼をできる可能性はあります。しかし、それも当事者同士での解決をお願いしています。
たとえば制作や完成が遅れたことすら報告しないというのはトラブルになりますが、それこそ投資ではなく合意でお金を出しているので、どういう状況で遅れているのかを定期的に報告できていればトラブルはおきないと思います。

参加者:最初に提示した金額では製作費が足りなくて、後から金額を追加することはあるんですか。

大高:今まではありません。それに相当の理由がない限りはやらない方がいいです。
結局お金もあまり集まらないし、一回目応援した人が怒りを感じるかなと。単に予算の策定が間違っていただけということになるし、作品の信頼性を損ねてしまう。信頼を元に集めているので、信頼を損なわないというのが一番大事だと思います。

・ミニマムに信頼を積み重ねる。

関:完成した作品の宣伝、P&Aのお金を集めることはできるんですよね。だから僕が大高さんに相談したとき、製作費で三百万、宣伝費で三百万の計六百万を一気に集めたいですと話したら、それは分けた方がいいとおっしゃられました。製作費でまず三百万集めて、完成したら報告しつつ、これを宣伝するので三百万お願いできますかという方がいいと。

大高:まだ制作前なのに劇場公開までうたってしまうと、作品は完成したが公開の費用が足りなくなったというのがリスクになります。
極論を言うと、制作のためだけに集めるのは作品の完成がゴールです。宣伝公開までは約束していないのでトラブルになりにくい。
出来たものを再度見直して経費を計算し集めるといった風にミニマムに約束をして信頼を積み上げていくことが重要かなと。

参加者:目標設定をして、もし半分の金額までしか集まらなかったら、返す、返さないを選ぶこともできるんですか。

大高:選べます。目標金額に行かなかったらキャンセルするというオーダーナッシング、もしくは集まった金額で作る、どちらかを選べます。
映画であれば、すでにクランクインしている、もしくは全部アレンジが終わっていて、かつ、クラウドファンディングはあくまで予算の一部ですという状況でないと選べないというかたちにしています。
それこそキャスティングがまだ終わっていなかったりする場合は、そもそも何故この実行価格が確約できるのかという話になるので、目標金額が集まらなかったらどういう対応をして完成させるかを提示してもらいます。
ただ完成保証はしないので、駄目になる可能性があることを充分理解した上で応援してくださいねということなのですが、さすがに今のところそれはないです。
例えば、話があまりにも壮大すぎるプロジェクトの申し込みが結構あるんですが、あまりにも地に足の着いていないお話しはお断りしています。ただ、最初から変な下心があってやっている人と、真摯にやっているんだけど事情があってできない人、そのどちらかというのはわからないので、リスクがあっての応援だということを伝えていかなければ、この仕組みが上手く回らないなとは感じますね。

(後編に続きます)

(文責:いながききよたか)

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