黒田紫さんへのインタビュー、第三回です。
仕事のお話を飛び越え、
お子様をどうお育てになったかを教えていただきました。
教育者のご家庭、非常に興味深いです。
それでは、今回も、滋味あふれるお話をうかがいましょう
(文/構成 いながききよたか)
プロフィール:黒田紫(くろだゆかり)
大学在学中18歳で日本初のプロチアリーディングチームのメン
バーとなり国内外のスポーツシーンで活躍。卒業後、神奈川県立
高校で英語・ダンス・チアを教える。子供の潜在能力を最大限に
引き延ばす独自の指導法で数多くの日本チャンピオンチームを育
成、世界大会に導く。かたわらプロ野球、Jリーグのチアチーム立
ち上げに多く関わる。多くの病と闘いながらも母子家庭で2人の
子供を育て上げ、2人を共に医学部に合格させる。母子家庭とい
う経済的・精神的に苦しい環境で2人の子供を医学部に入れた教
育法は多くの若い親たちに多くの勇気を与えている。また、脳梗
塞・メニエル病・バセドー病・摂食障害など多くの病気と闘い復
活した経験をもとに講演活動も行っている。
52歳の現在も現役チアリーダーとして活躍中。
第三回
――一日のルーティーンというか、
なんとなくの流れを教えていただけますか?
黒田:一日のルーティーンですか?
6時くらいに起きて、6時40分くらいに家を出て、
職場までちょっと遠いので、
7時15分から20分くらいに着いて、準備して、
朝練をやっていることが多いので、
ちょっと子供たちの顔を見に行って、
8時半から打ち合わせをして、
8時40分にHRに行って、
50分から授業をやって、大体午前中3時間、
午後1時間か2時間、授業をやります。
大体、毎日会議があるので会議にいって、
17時か17時ちょっと過ぎに終わるので、
17時半に部活に行って、
18時半か19時くらいまで練習をみて、
職員室に帰ってきて残りの仕事をやって
19時半か20時に学校を出て、
家に21時ちょっと前に着いて、
身体に障害を持った柴犬がいるので
その子の世話をして、
勤務中はあまりスマホを見れないので、
メールとかメッセージの確認や返事をし、
ご飯を食べてお風呂に入ってるともう夜中なんですね。
それから、本の原稿を書いたり、
出版社の方からの依頼の原稿を書いたりとか、
大会が近い時は曲を聴いて、
どんなのをやろうかなって考えてみたり、
今度はこの衣装でやりたいなぁとか考えてみたりだとか、
そういう時間を作り、
実質、睡眠は三時間くらいでしょうか……。
――すごいですね……、毎日ですもんね。
黒田:大体、毎日そうですね。
――土曜日、日曜日は?
黒田:部活とか大会ですね。
でも、土曜日、日曜日の1日どっちかは
あけるようにしてますね。
家を掃除したり、洗濯したり。
――同時にお母さんでもあるんですよね。
そこらへんのことについても
お聞きしたいなと思うんですが。
黒田:上の子が今年、晴れて大学を卒業しまして、
いま研修医1年目になりました。
――お医者さんですね。
黒田:はい。下の子も医学部なんですけども、
防衛医科大学という特殊な大学なので、
寮にいて週末に帰ってきます。
――お二人ともお医者さんですか?
それは、自発的に、目指されたんですか?
黒田:そうですね、具体的にお医者さんが
良いんじゃない?とか、お医者さんになろうよ、
と言ったことは一回もないです。
ただ、ちょっと仕向けたことはありますけど(笑)。
――というのも、今回、仕事という切り口で
インタビューしているんですけど、
もちろん職業人でありながら、
父であったり母であったりもする部分って、
仕事とは切っても切り離せないと思うんです。
ですので、その辺りもある程度伺っていたほうが、
相互補完出来るのかなと。
普段、学校では生徒さんと接していて、
家ではご自分のお子さんと接するんですよね。
どうやってお育てになったのかということと、
どういう関わり合い方をしたのかなと。
黒田:これも本に書いちゃったんですけど……(笑)。
子供が親の思い通りにならないとか、
親がこんなに想っているのに、
子供が親の気持ちを汲んでくれないという時、
または、親が
『これだけの愛情を注いだんだから、
こうなってよ』って見返りを求めたその時、
子供は絶対に親の愛情に応えようとはしないんです。
よくお母さん方に、
『先生は、お子さんのことすごい可愛がられたんですか?
それとも突き放したんですか?』って聞かれるんですね。
私は、『ものすごく可愛がりました!
もう可愛がっても可愛がっても
可愛がりすぎることはないですよ。
愛情を注いで、何も間違いはないですよ』
って答えるんです。
『じゃあ、どうしてそんな可愛がったのに
自立したお子さんになったんですか?』
って返ってくるんです。
『だから、可愛がったからですよ!』って。
ただ、私は本当に子供が可愛い可愛いと
愛情を注いだけど、それは本当に、
娘が好きで息子が好きだったからです。
――なるほど、可愛がり過ぎたら、
甘えん坊になってしまうんじゃないかっていう危惧自体、
杞憂だということですよね。
つまり、甘えん坊になってほしくないと思うこと自体、
こういう風になってもらいたいと思っているというか。
ただ、全身で愛情を注げば、いいか……。
黒田:『こうしたから、子供たちにこうしてもらおう』とか
そういう風に思ったことはないですね。
『もし、お母さんがそういう風に思ったら、
子供はお母さんの愛情にそっぽむいちゃいますよ』
ということは、必ず言います。
あと、医者の道を目指したのは、
別に医者でなくてもよかったんですね。
ただ、私は離婚をしているものですから、
どこでなにが起こるかわからない、
私は早くに両親失くしているので、
親に頼ることもできない。
どこでどういう風に、
自分一人で歩んでいかなきゃいけないか
わからないから、
その時にちゃんと自分の好きなことが
出来るような人生を歩んでほしかった。
となると、やっぱりお金なんですよね。
お金がないと、どんなにダンスが好きでも
ダンスは出来ないし、どんなにサッカーが好きでも
サッカーが出来ないっていうのは、子供に教えました。
娘はダンスがものすごく大好きだったんですね。
そうした時に『じゃあ、ママ、
私はお金持ちになりたいんだけど…』って。
ダンスはすごくお金がかかるんです。
それは娘もわかっている。
バレエの発表会を一回やると
もう何十万とかかっちゃうんですね。
『ママ、私はダンスが大好きだから一生ダンスやりたい。
お金持ちになりたい。どうしたらいい?』
って言われたの(笑)。
それが小学校の低学年ですよね、
『人の命に関わるお仕事は、
お金が、たくさん手に入るよ』
『じゃあ、ママ、例えば?』って言うから、
『医者かパイロットか弁護士だ』って言ったの。
一同:(笑)
黒田:まだ小学校の下級生の子にそう言ったら、
彼女は、一晩考えて、
『ママ、私お医者さんになることに決めたから』
って言ったの。それからですね。
で、息子もお姉ちゃんが大好きなので、
『そっか、じゃあ、僕も好きなことやりたいから』って、
医者の道を選びました(笑)。
これも本に詳しく書いてあります。
本当に本の宣伝みたいで申し訳ないんですけど……。
――いえいえ、ぜひ、読者の方に本を読んでもらいたいですね。
黒田:ぜひ、読んでいただきたいです。
ほんと、詳しく書いたので!!
――もはや、いつものインタビューの範疇を超えて、
仕事が云々というより、
生き方そのものみたいなことになってますが……。
でも、そこから僕らが学べる点は多いと思います。
今の話じゃないですけど、
お金っていうのは大事ですよね。
お金と仕事と職業みたいなことって、
大人になれば、自分でちゃんと、
何か答えを見つけて取り組まないといけない。
俺は貧乏でも良いから絵を
描いていきたいっていう人もいるだろうし、
ある程度資本を確保して
好きなことやりたいっていう人もいるだろうし……。
ただ、僕も子供がいるんですが、
先ほどの、可愛がるっていうお話を聞いて、
少し自信が持てました。
見返りじゃない愛情ということと、
見返りを求めた途端、
そっぽ向いちゃうというお話はすごくわかりますね。
黒田:押しつけになっちゃうんですね。
そんなつもりで言っていなくても、
子供は頭が良いので感じちゃうのね。
よくお母さん達の相談で
『なんでうちの息子は他の家の子みたいに
母の日になにもしてくれないんでしょうか?
私の愛情を何も感じていないんでしょうか?』って、
質問があるんですね。
『じゃあ、お母さん、
母の日だからとかなになにだからとか、
そんなこと思わないで、
ただ生まれた時のことを思い出して、
可愛い可愛い可愛い!って過ごしてみてください』
って言うと、
お母さんから『本当に先生のおっしゃったとおり、
母の日にカードをくれました。
すごい嬉しかったです』みたいな。
特に男の子はそういうことに敏感で、
お母さんに対して厳しいし……(笑)。
――それは生徒さんの保護者からの相談ですか?
黒田:全然、違うところからもきます。
それがですね、変な話ですけど、
教育評論家みたいな方なら、
お仕事になるんでしょうけど、
私の場合には全然違うじゃないですか。
ただ、私の睡眠時間が減るだけで……(笑)。
本当にね、そういうのが職業になったら
どれほど楽だろうかと……。
――そういう道もありそうですけど、
でも、ちょっとイメージ出来ないかもしれません。
黒田先生が、教育評論家のようにして、
テレビに出られたりとか。
なんだろう、なぜかわからないけど(笑)。
やっぱりそれは、
現場感があるってことなんだろうか……。
黒田:現場感ですか?
――やっぱり教育の現場に携わられているからこその、
言葉の説得力みたいなものがあるのかもしれません。
黒田:確かにそうかもしれないですね。
――学校って、結構、変わられるんですね。
黒田:そうですね、新採用の先生は5年から、
大体7年くらいで変わりますね。
私の場合、茅ヶ崎高校というところは特例で
13年いました。
本当は、あまり長くいちゃいけないんですけど。
上限で10年なんです。
でも、13年いさせてもらいました。
全日本チャンピオンだったとうこともあり、
神奈川県としては、
それが看板の学校だったんですね。
全県から生徒が集まってくるんです。
――今の学校は3年計画って
おっしゃていたじゃないですか。
もともと、部はあったんですか?
黒田:あったんですけど、
もうとんでもない悪名高きダンス部だったんですね。
最初、転勤が決まった時、校長先生にご挨拶に行って、
『何部を受け持ってもらえますか?』って聞かれて、
もちろん『ダンス部!!』と答えたら、
『良いんですか!?本当に良いんですか?』と言われて…。
着任式の時に……、いや、すごかったんですよ。
もう金髪はいるし、茶髪はいるし、赤毛はいるし……、
すごい、こんな子たちもいるんだなぁなんて思って、
その日の放課後、ダンス部にいったら、
それが全員ダンス部だったの。
――またドラマがありますね。
黒田:すごかったんですよ。
悪い子ではないんだけど、やっぱり、ちょっとね、
『ダンスを一生懸命やるなんて、えー』みたいな感じで。
ちゃんと練習しようと思うと、
『先生、練習しなくていいよ』みたいな(笑)。
まあ、でも、私は、せっかく部活をやるなら、
3年間、有意義な時間を過ごしてほしいと思ったので、
子供たちには、
『私はこういうチームを作りたいと思いますよ』
って説明したんですね。
で、子供たちもわかってくれて、
『じゃあ、先生、別に作ってください』って(笑)、
それで、『わかりました~!』みたいな。
で、彼女たちの存在は一応、認めて、
ちゃんともう一回チームを作りなおして。
でも、その子たちが卒業していくときに
『もうちょっと早く先生に会いたかった』って
言ってくれたんですね。それはちょっと嬉しかった。
一年生の時から、そういうもんだと思えば、
やっぱり練習するんですよね。
三年にもなって、先生が新しくなってね、
これから練習しよう!なんて、
彼女たちにもやっぱりプライドがあるわけで……、
彼女たちも可哀想ですよね。
――じゃあ、今は猛特訓中ですね?
黒田:そうですね。
ただ、まぁ、3か月で育てたころとは
やっぱり時代が違うものですから、
同じことをやったら潰れちゃうんでね、今の子は。
なので、3年計画で。
――今は、夏休みですよね。
夏休み中って、先生はどんな仕事をしてるんですか?
黒田:溜まりに溜まった書類を整理します。
提出しなくちゃいけなかった報告書とか。
日々の生活では出来ないので、
溜めておいて夏休みにやるんです。
――大変そうですね。
教育の制度が昔と変わってきたって、
おっしゃっていたじゃないですか。
どういう風にかわってきたんですか。
いろいろコンプライアンス的なことが
多くなったとかそういうことですかね?
黒田:不祥事とかが重なって、
管理が厳しくなったんですね。
なんでも報告書ですね。
例えば、合宿に行くのでも、
昔は生徒たちの親御さんにね、
これだけお金が掛かりますって、
報告書出してって感じだったんですが、
今は、もうすごいですよ、
合宿始まる前に報告書を出すんです。
指導目標とか安全管理についてとか、
すごくたくさん出して、
また、帰ってきてからもたくさん……。
その目標が達成できたかとか、
ひとつひとつ全部報告書を書いて……。
だからもう最近は先生たちも
合宿をやりたがらないですよね、準備も大変だし、
帰ってきてからの報告書も何日もかかるし……。
私は行きましたけど、もう泣きそうでしたね。
――なんか窮屈ですね。
リスクをあまり取りたがらないというか。
公の場でしょうから、特にそうなのかな。
イメージとして、そういう環境から、
あまりクリエイティブなものって
生まれないような気が、僕はするんですけど。
黒田:おっしゃる通り、
本当に文科省のお役人さんたちが
好きなようにやっているだけで……、
もっともクリエイティブじゃない人たちがね……(笑)。
――責任を取りたくない、
追及されたくないというシステムですよね。
黒田:そうですね。
――公立と私立とでは、違うんですか?
黒田:全然違います。
公立の先生たちは本当に大変なんです。
特に小学校、中学校なんかは、
もうどれほど大変か……。
高校生だと、一応彼らも大人なのでね、
こちらのことも労わってくれるんですね。
『ごめん、あなたのこと、やりたいんだけど、
今、先生こういう状態で……』って言うとね、
『いいよ~明日で』とか言ってくれるんですよね。
でも、小学生はそうはいかない。
やっぱりね『先生、僕のことほっといた』とか
『先生、僕のこと嫌いなのかもしれない』とか、
ちっちゃな胸を痛めちゃうんですよね。
だけど、小学校の先生もやっぱり限界があるので…。
――そうかぁ、昔とはだいぶ変わってきたってことですよね。
僕は、実は、中学校から私立だったんです。
私立は、その学園の規則にのっとって
やっているわけですよね。
もちろん、文科省が一番の親分だろうけど、
もうちょっと自由度が高いってことですよね。
黒田:そうですね
――では、お子さんを育てる秘訣というか……。
すごく勉強が出来ないと、
お医者さんにはなれないじゃないですか。
勉強とか教えられたんですか?
黒田:実は、一回も勉強しなさいと
言ったことはないんです。
むしろ、逆に『一緒にご飯食べに行こー?』
『どこどこに新しいお店出来たから行こ~』
なんて誘うと、『もう、ママ、うるさい』
とか言われたことはあるけど、
『勉強しなさい』はないですね(笑)。
――じゃあ、自発的に?
黒田:はい、そうですね
――そうなるには、どうしたらいいんだろう。その辺は、ぜひ、黒田先生の本を読んでみたいと思います。
(※『90%は眠ったままの学力を呼び覚ます育て方』風鳴舎)