黒田紫


黒田紫さんへのインタビュー、第二回です。

高校の教員でありながら、
黒田さんの活動は多岐にわたります。
そして、いつもその中心には、
「教える」ということがあるようです。
今回は、黒田さんの「教える」才能、
その一端に迫ってみました。

それでは、今回も、滋味あふれるお話をうかがいましょう。

(文/構成 いながききよたか)


プロフィール:黒田紫(くろだゆかり)

大学在学中18歳で日本初のプロチアリーディングチームのメン
バーとなり国内外のスポーツシーンで活躍。卒業後、神奈川県立
高校で英語・ダンス・チアを教える。子供の潜在能力を最大限に
引き延ばす独自の指導法で数多くの日本チャンピオンチームを育
成、世界大会に導く。かたわらプロ野球、Jリーグのチアチーム立
ち上げに多く関わる。多くの病と闘いながらも母子家庭で2人の
子供を育て上げ、2人を共に医学部に合格させる。母子家庭とい
う経済的・精神的に苦しい環境で2人の子供を医学部に入れた教
育法は多くの若い親たちに多くの勇気を与えている。また、脳梗
塞・メニエル病・バセドー病・摂食障害など多くの病気と闘い復
活した経験をもとに講演活動も行っている。
52歳の現在も現役チアリーダーとして活躍中。




第二回

――お仕事の話に戻ると、
  何かを教えるということは
  黒田先生にとって天職だったのかなと、
  なんとなく想像するんです。
  教えるというのは、
  一番平たく言えば「学校の先生」かもしれません。
  ただ、冒頭でおっしゃっているように、
  他にも、いろいろな活動をしていらっしゃって、
  それらを通して、さまざまな場所で教えるということを
  やってらっしゃると思うんです。
  そうなるまでには、どんな道筋があったんですか?

黒田:まず、日本一になったチームは
   「ランサーズ」というのですが、
   それが、すごく良いチームになったので、
   大会に出るだけじゃなく、子供たちに、
   いろんな経験をさせてあげたいと思ったんです。
   それで、地元のいろんな場所で演技をしたんですね。
   そうすると、評判が評判を呼び、
   いろんなところからお声がかかるようになったんです。
   当時は、Jリーグにもプロ野球にも、
   チアリーダーのチームはなかったので、
   たまたま地元の平塚にベルマーレっていうチームがあって、
   噂、評判を聞かれた関係者の方が、
   ぜひ一度うちのホームゲームで踊ってくださいと
   依頼してくださいました。
   そこで、子供たちと踊ったんですね。
   私も踊ったんですけど……。
   それがものすごい評判になったんです。
   サポーターのみなさんも喜んでくださって、
   『ランサーズありがとう』の投書がたくさんきました。
   特に、体の不自由なお子さんを連れてみえた親御さんから、
   『うちの息子は、サッカーの試合を見に行っても
   何もわからないんです。
   でもランサーズのダンスになると喜ぶんです』という……。
   それで球団の方たちも、
   ぜひ引き続き踊ってください、と。
   そうしたら今度、相乗効果ですよね、
   ランサーズが出ると負けないという不敗神話ができて、
   実際、本当に負けなかったんですよ。
   それがまた、評判を呼び、
   今度は新聞の全国紙で取り上げられたんですね。
   で、今度それを読まれた今のDNAベイスターズの
   関係者の方が、そんなに評判のチームなら
   今度ぜひうちのホームゲームでやってください、と。
   それで、ベイスターズのホームゲームでも
   やらせていただいて、
   そこでもまたまた評判を呼び……という風に、
   Jリーグからプロ野球に広がっていったんです。


   人様の噂というのは本当にありがたいもので、
   今度は、あの踊りを教えてくださいとか、
   あの演出をうちのチームにもやってくださいという
   お話が私にくるようになったんです。
   私が教えている子供たちは、
   とても良い子たちなんです。
   なにか一つを頑張れる子って良い子なんですよね。
   本当に素晴らしい子たちに恵まれました。
   子供たちの立ち居振る舞いを、
   東京ドームやいろんなところでご覧になられた
   社長さんたちが、
   『あのしつけをうちの社員にもやってください』と
   言ってくださったりしました。
   本当に生徒のおかげで私自身がいろんなところに
   つながらせていただいてるんですね。
   「どうやったらあんな良い子になるんですか?」と、
   言われた時に、もちろんダンスチームですから
   ダンスもしてますけども、
   一応女の子たちの部活ですから、
   立ち居振る舞い、
   箸の持ち方一つから厳しくしつけてますと……。
   最初のうちはやらされているという
   気持ちがあったかもしれないけど、
   自分たちが段々有名になって、
   注目されるようになると、
   私が言わなくても自分たちでやるようになるんですね。
   「これはやらされているものではなくて、
   自分たちでやっているんだな」って、
   会社のトップに立たれるような方たちには
   分かるんですね。
   だから、「この生徒のコントロールの仕方を
   ぜひ学びたいんです」と言われて……(笑)。

――講演やレクチャーなどもされているんですよね。

黒田:はい。あと、私、脳梗塞をやって、
   半身不随になりかけたんですけども、
   復活したので、どういう風に脳梗塞から
   立ち直ったのかっていう講演も多いんです。

――いわゆる事務所みたいなところに
  所属されていないんですよね?
  直接、黒田先生にオファーがくるんですか?

黒田:そうです。

――黒田先生は、学校の中だけではなく、
  色々な場所でなにかを教える方なのかなと、
  段々わかりかけてきました。

黒田:そうですね。
   本当にこういう風に産んでくれた
   両親に感謝しているんですけど、
   私、本当に、なにも考えなくても、
   この子は私にこういう言葉を掛けてほしいんだなって
   わかるんですね。
   現在、3年計画でチームを作っているので、
   1年生と2年生の13人しかいないんですけど、
   それぞれに個性があって、
   それぞれ思っていることが違います。
   でも、私はあの子たち一人一人と関わっていると、
   この子はきっと私にこういう言葉掛けを
   してほしいんだろうなとか、
   私にこういうところを見てほしいんだろうなとか、
   それが13通り、分かるんです。
   私は理論やセオリーでチームを
   作ってきたわけではありません。
   ただ、私の武器は、
   本当に子供たちの心の中が読めちゃう、
   それだったのかなと思います。

――それは経験で培われたものでは……。

黒田:ではないですね。
   もちろん経験もね、
   さすがにもう30年も学校の先生をやっていると、
   いい加減わかってくることもあるんですけど、
   でも、最近若い先生と話していると、
   「生徒が何を考えているかわからないんです」
   という悩みの相談を受けるんです。
   でも、私は新任の時から、それはありませんでした。
   もちろん、悩みはたくさんあったし、
   苦しんだこともありましたけど、
   生徒が何考えているか?という悩みはなかったんです。

――例えば30年間という長いスパンの中で
  時代も社会背景も経済状況も
  どんどん変わっていますよね。
  そして、社会が変わっても言われ続けるのは
  「いまの子供ってわかんない」ということです。
  子供ってすごく敏感ですし、
  社会の変化と共に彼らも
  変わったんじゃないかなと思うんです。
  それでもなお、彼らの考えがわかるということが
  すごいんだと思います。
  どうですか?
  長年子供達を見てきて、昔と今の子供って違いますか?

黒田:全然、違います!まったく違いますね。

――違うところは、どういうところですか。


黒田:もちろん、本質的なところでの違いはないにしても、
   何か一つのことを解決しようとするときに、
   やっぱり昔の子たちはまず自分で考えたんですね。
   でも、今は、かなり情報量が増え、
   スマホですぐ検索すればいいという感じになりましたよね。
   すぐに検索できるってやっぱり大きいと思うんです。
   今の子たちって何かあると考える前に検索なんです。
   そういうものを使っちゃいけないとは言えないし、
   あるから仕方ないんですけど、
   そういうことは部活でも授業でもやっぱり感じますね。
   なので、子供たちに、昔は言わなかったけど、
   今は、「まず考えてみようか?」と、言ってますね。
   昔は一回も言ったことないですけどね。
   あとは、昔の子たちよりも今の子たちのほうが
   可愛がってほしい。
   すごい可愛がってほしいということはありますね。

――「承認欲求」が、強そうですよね。

黒田:私を見てほしいという。

――どうしてそうなったのか、ということには、
  僕はあまり興味がないんです。
  社会学的世代論というより、
  実態として、現場でどういうお子さんたちと
  接しているのかということに興味があるんです。
  それに、逆に変わらない部分もあると思うんですよね。

黒田:変わらないところもあります。
   どんな家の子でもやっぱり自分を見てほしい、
   自分を可愛がってもらいたいという気持ちは、
   全然変わらないんですね。
   なので、子育てに全然関係のない男の方が、
   今度の本(※)を、読んで、
   おもしろいと言ってくださるのは、
   たぶん、ご自分の部下とかお友達とかに対する
   接し方に通じるところがあるからだと思うんです。
   よくお母さんとかお父さんに
   『本当に、うちの娘、
   なに考えているのか全然わかんないんですよ、先生』
   とか『先生から言ってやってください』って
   言われるんですね。
   その『先生から言ってください』
   っていう言葉を一言、言っただけで、
   もうその段階で子供はお母さんに心を開かないんです。
(※『90%は眠ったままの学力を呼び覚ます育て方』風鳴舎)


――なるほど。


黒田:やっぱり、子供は可愛がってほしいんです。
   自分をいちばん可愛がってほしい。
   なので、私はクラスの子も部活の子もそうなんですが、
   クラスなんか40人もいるので、
   40人分可愛がるんです。
   一人一人と話すとき、
   あなたが一番大切なんだよという態度で話をします。
   部活の子もそうです。
   13人いるけど、ひとりひとり、
   もう全員可愛い大切な子なんですけど、
   私はあなたが一番大切だからねっていうのは、
   ……口に出して言っちゃうと問題になるので、
   口に出しては言いませんけど、
   態度とか雰囲気とかで、表しています。

――確かに、そういうことは、
  学校の現場だけでなく、
  年長者から年少者までいる企業にも
  通じるものがありますよね。
  相手が、今、何を言って欲しいか分かるって
  おっしゃてたじゃないですか。
  それってたぶん才能だと思うんです。
  身に着けたいとしたら、
  どういう訓練をすればいいですか?
  というのも、例えば、今、会社なんかで、
  上司と部下の関係もかなり難しくなってると思うんです。
  訓練して身につけることはできますか?

黒田:出来ると思います。
   もし仕事じゃなかったら、
   口も聞きたくないなと思う人でも、
   一度その人のことを好きだと思いこんでみる。
   そうすればいいと思います。
   もちろん、私も人間ですから、
   いくら学校の先生でも、
   合う、合わないってあるんですね。
   そりゃ、40人のクラス持てば1人や2人、
   私とソリの合わない子がいるんです、
   で、向こうもそう思ってる。
   『ちっ、あいつが担任か…』という、
   素振りを見せます。
   でもね、私は絶対好きになるんです。
   「私は好きなんだ!」と思う。
   「私は○○君のことが好きなんだ!」と。
   そうすると不思議なことにその子を見る目が変わります。
   その子も
   『なんだ先生、もしかして俺のこと……』って(笑)、
   そうするとしめたもので、
   ちょっとずつ表情が変わっていくんですよ。
   例えば悲しいときの目とか、苦しいときの目とか、
   嬉しいときの目とか、そういう目つきが、
   とても、わかるようになるんです。
   だから、いま頑張ったねって言って欲しいんだなとか、
   ありがとうって言って欲しいんだなとか。
   でも、同じ教員でも、
   「やっぱりあいつと合わないんだよ」と
   口にしてしまう先生もいらっしゃるんですね。
   そう口にすると、
   どんなに一緒に過ごしてもわからないと思う。
   例えば、私が担任を持つとして1年間、
   1年経って担任じゃなくなったら、
   その子のこと嫌いになって良いんですよ。
   私が関わりあるときだけは、好きになる。


――好きになるか……。
  やはり、たくさんの人と接してこられた方ならではの、
  叡智というか……。
  接してこられた方でいえば、圧倒的な数ですもんね。

黒田:日本全国、いろんなところでダンスをやったので、
   そういう、1回しかお目にかかったことのない
   お子さんたちも含めれば
   本当に星の数ほどいるかもしれないですね……。

――そういうダンス教室は
  土曜日・日曜日に行かれるんですか?

黒田:はい、公務員なので、
   外で仕事しちゃいけないんですよね。
   なので、例えば講演会をやらせていただいて、
   その終わった後に、
   ちょっとお母さんとお子さんと
   やってみましょうかとか、そんな感じでやってます。

――ちょっと、突っ込んで伺いたいんですけど、
  なんとなく僕が想像する教育現場の雰囲気と、
  その中にいる黒田先生というのは、すごく……、
  異質というか、
  その枠に収まりきらないんじゃないかなって思うんですよ。
  失礼だったら、ごめんなさい。
  僕みたいなのは凡人だから、
  そこに、すごい軋轢を感じちゃうんじゃないかと
  思ってしまうんですけど、そういうことはありますか?

黒田:あります!
   私のような教員をおもしろく思っていない方も
   たくさんいるでしょうし、
   むしろ嫌だなと思っている人のほうが
   多いんじゃないかなと思いますから……。

――でも僕が、子供だったら、
  黒田先生のような人に見てもらいたいなとは
  思いますけどね。
  好きになってもらいたいですからね。

黒田:ありがとうございます(笑)。

(第三回に続きます)





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