桜林美佐


桜林美佐さんへのインタビュー、最終回です。
様々な遍歴を経て、
現在、防衛ジャーナリストのお仕事している桜林さん。
本当の目的は執筆ではないと言います。
さて、その本当の目的とは。

それでは、今回も、滋味あふれるお話をうかがいましょう。

(文/構成 いながききよたか)


プロフィール:桜林美佐

職業:防衛ジャーナリスト(日本の防衛政策を取材・執筆)
出身地:東京都
生年月日:昭和45年4月26日

防衛省「防衛生産・技術基盤研究会」委員
内閣府「災害時多目的船に関する検討会」委員
防衛省「防衛問題を語る懇談会」メンバー等を歴任
(更に詳しいプロフィールは記事末にあります)


最終回

~「与えられているもの」~


――ところで、自分が何をしたいかっていうところで、
  結局仕事を選んでると思うんです。
  書きたいというところが、一番根源的にあるから、
  例えばそれが、名前が出ないようなものでも、
  僕は忌憚なく書けるというか。

桜林:それはわかります。
   私も30代のころは、
   とにかく仕事断るようなことはやめようと思ったので、
   その内容がなんであれ、自分を試そうと思って。
   それで、おもしろく出来たら、やった!て思うから。
   そう思って、やってたけど、40代になってからは、
   まぁちょっと選ぶというのはありますね。

――自分の基準値があって「これが書きたい」
  というものがある人はやっぱりそれを基準に
  「これは違うよな」と判断すると思うんです。
  それは結果的にみると選んでるように
  見えるかもしれないけど、
  ただ専門外だからできないと自分で
  思ってるっていうような感じなんですよね。

桜林:そうですね。

――パフォーマンスが発揮できない仕事は
  そもそも仕事として成立しないというか。

桜林:わかります。

――キャリアが長くなっていくと、
  どんどん技術が高まっていく感じ。
  そういう感覚ってありませんか?

桜林:あります。

――例えば、いま「釣りのことについて
  書いてください」って言われたらどうですか?


桜林:いや、わかりますよ、それ。
   昔だったら必死にやってただろうけど。
   逆にやってたことが今活きていることも
   あるんですよね。
   だから、ある程度まではやろうと思ってますよ。
   全然関係ない話も。
   「火災警報器について書いてください」とか、
   もう、とことんやるよ。
   別に、防衛とかにこだわっていない時は、
   だってそれこそ「はなまるマーケット」の
   ディレクターやってたぐらいだから、
   料理レシピの小さじ1とかやってたわけだから。
   でもね、そういうのがないと、
   人間の幅が広がんないっていうか……。

――そうですよね。

桜林:若いうちはね、
   それこそなんでもかんでもやっておいて
   よかったな。と思いますけどね。

――想像するに、今、働いてらっしゃるフィールドは
  男性社会のようなイメージがあるんですけど、
  実際どうなんですか。

桜林:改めて見ると本当にそうだなって思うけど、
   あんまり意識してないですね。

――男性・女性でなにか区別・差別する
  わけじゃないですけど、
  日本は特に男性社会の特殊な縄張りとか
  仁義みたいなのが、いまだに残っているような
  印象があるんです。
  そういう中での女性ならではの立ち振る舞いを
  要求されるときもあるわけじゃないですか。

桜林:やっぱね、馬に乗ってたことが影響してますね。
   そういうことを全然意識しなくなったんです。
   名実ともに、男っぽくなっちゃうんですよね。
   だって、馬に踏まれて肺とかに穴
   空かないわけですよ、普通の女子は。
   乗馬の世界って、それで大丈夫?
   とかって言ってもらえない世界なの。

――へえ。

桜林:自衛隊とか行って、
   「この人結構耐えられるんだ」と思われて。
   だから、そうなると別にあんまり意識されない
   っていうか。それはありますよね。

――なるほどね。
  それはかなり乗馬の経験が役立っているんですね。

桜林:そうなんですよ。


――日本には、桜林さんの他に、
  「防衛ジャーナリスト」という人は、
  たぶんいないんでしょうけど、
  どうやったらなれますか?

桜林:これはね、明日にでも誰でもなれますよ。
   自分から名乗れば。

――みんなそうやって言いますよね。
  名刺に書けばいいんだよって(笑)。

桜林:ほんとに?

――それは、名前じゃないんだよ。
  やってることの内容なんだよ。
  っていうことのメッセージだと思うんですよ。

桜林:うんうん、そうですよね。

――今の仕事について達成感というか
  到達感みたいなのって、どういうときに感じますか?
  自分の中でどこまでハードルを設けているか
  っていうことも含めてなんですが。

桜林:変かもしれないんですけど、
   もともと自衛隊の方やいま付き合ってる
   仲間たちのことを自分の飯の種にしたくないなって
   いうのがあって、別にかっこつけじゃなくて、
   「自衛隊はこんな大変で…」みたいなことを
   書いてお足をもらうっていうのは
   正直あんまり気持ちが良くないんですよ。
   例えば、原稿を書いてくださいという
   オーダーがあって、本にして、それを成果物として
   出して、まぁ売れました。ってことになっても、
   どこかに、もやもやしたものがあって、
   私はその自衛隊をネタに生活している
   人間なんだというような。
   それを言うと、割と「自分たちのことを
   発信してくれる人がいないから、
   それはいいんだ」と言ってもらったり
   するんだけども、本を出した時に
   すごく晴れ晴れとした気持ちになるかというと、
   あんまそうじゃなくて……。
   一番、達成した!と感じる時は、
   実はそういう表立った仕事じゃなくて、
   どちらかというと……。
   例えば具体的に言うと、
   自衛隊で使っているお風呂が壊れています、
   みんな、3日に一度しか入っていません。
   じゃあ、そのことをなんとかしようということで、
   目標決めて書いたりとか、
   でも、書くだけじゃ物事動かないので、
   自分の知っている人に話を持って行ったりするんです。
   行政って右のものを左に動かすことが、
   ものすごく難しい世界じゃないですか。
   やっぱりお役所仕事なわけで、
   でも、私だったら例えば国会議員に会うことだって
   出来るわけですよ。
   そこで、実はこんな問題がありますよ、と伝える。
   そしたら、上からおろしますかとなって、
   あっという間にそれが動くことが
   実際あったりするんですよね。
   そういうことって、私にとっては、
   仕事でもなんでもないし、
   自分に報酬があるわけでもないんだけれども、
   私の人脈で人と話をしたら、
   すごく多くの隊員さんがお風呂に
   入れるようになりましたとなる。
   そういうことが出来るのは、
   結局、自分が本を出したりある程度の知名度が
   あったりするからなので、
   その為に、本意じゃなくても本を出したりとか
   しなくちゃいけないのかなって。
   だから、別にテレビに出たいわけじゃないけど、
   でもそれをしないとみんなに私を知ってもらえない。
   だから、やるんだけど、自分が有名になることは
   決して目的じゃなくて、一つの物事を、
   右から左にスムーズに動かすための手段なんです。
   そういう困っていることって、
   ほんとうに細かいことなんですよ。
   例えば、落下傘を縫っている縫子さんが、
   今までは5人だったけど3人になっってしまった
   ということを聞くと、私なら、なんとか出来るかも
   と思ってしまって。そんな縫子さんのことなんてね、
   こんな集団的自衛権とか大々的な議論が
   なされているけど、誰も知らないことじゃないですか。
   でも、それもすごい重要なことなんです。
   しかも、誰も動かせないんですよ、こんなことは。
   だけど、私だったら出来るかもと思って、
   動けば、実際縫子さんが増えたりと、
   それを達成した時が一番充実しているかもしれませんね。

――誤解を恐れず言いますが、
  客観的に聞いていて一番近い言葉を探すと、
  それこそが「政治」なのではと思ってしまいました。
  なにか困っている人や問題があって、
  それに対して、どう解決するかという……。

桜林:だけどね、よく国会議員とか出ればとか
   言う人いるんですけど、
   それもまたちょっと違うんです。
   結局、私が知っている議員の先生に説明しにいっても、
   やっぱりそれはそれで、
   しがらみがすごくあって動きづらかったりとか、
   ああいう世界独特の嫉妬があったりするので、
   私みたいなスタンスが一番動きやすいんですよ。
   政治家でもないし、役人でもないから。
   ちょっと言い方悪いですけど、政治家を使うというか、
   こちらが選べるわけです。
   この人が一番、使えそうだなって(笑)。
   かえって自分が政治的なポジションに立っちゃったら、
   がんじがらめになっちゃうと思います。

――なるほど。
  そういった民間レベルの「まつりごと」も出来るんですね。

桜林:割と物事を動かせるんですよ。やろうと思えば。


――桜林さんにとっての仕事ってなんですか?
  なんか漠然としてて、すごく抽象的な言い方ですけど、
  なんとなく仕事の哲学みたいなことを
  伺っておきたいなと思って。

桜林:仕事は、やっぱり、使命なんですよ。
   多分、仕事って生きていくための手段っていうか、
   お金を得るためのツールみたいな感性が
   大半だと思うんだけど、
   結局いま私が一番達成感を感じているのって、
   お金にならない仕事じゃないですか。
   でも、それってたぶん私に
   与えられたものなんですよね。
   それに気づくかどうかは、
   その人のアンテナや感性が
   どれだけあるかだと思うんです。
   ラジオ局に行くと大学生のアルバイトがいて、
   就職どうしようなんて聞かれるんです。
   みんな自分の感性がまだ磨かれていないから、
   自分が何をしていいのか
   わからなかったりするじゃないですか。
   それで、そのまま一生いっちゃうみたいな……、
   だけど、感性に気づけば、
   「それがあなたの仕事です」としか、
   私は言いようがないんだけど。
   それは、自分で気づかないとわかんない。
   だから、たぶん、私もすごく不安定な中で
   生きてきて、よく生きてきたねって
   言われるんですけど、いよいよ困ると、
   なんかの不思議な力に助けてもらってるというか、
   なんか生かされているなと思うことが多いんです。
   それはたぶん、自分のやるべきことを
   なんとなくわかっているから、
   きっと見えない力に助けられてるのかなって
   気がしてます。
   逆にこれじゃちょっと将来的に
   私生きていけないかもしれないからといって、
   まったく自分と関係ない仕事をしていたら、
   もっとダメだったと思うんですよね。

――なるほど、始まりはライターと名乗っていたけど、
  雑誌の方から言われてジャーナリストになった。
  しかも防衛ジャーナリストっていうのも
  そういういわゆる外部からの提案だったという
  お話しなさったじゃないですか。
  あなたにとって「仕事」とはなんですか?
  と聞くと、自分のエゴみたいなところから
  出てくる人もいると思います。
  それは全く悪いことじゃなくて、
  例えば「映画が作りたい」ってすごく
  エゴ的発言なんですよね。
  一方、桜林さんのように、自分が軸ではなくて、
  他者があっての自分という、
  それは、たとえば、「使命」ということに
  置き換えられると思うんですが、
  外部性から動機が始まっている「仕事」もあります。
  桜林さんのお話聞いていて、
  他者や外部とのつながりで、
  生きていかれる方なのかなっていう風に思いました。

桜林:そうですね。
   でも、映画を作って、それを見た人が
   すっごく感動したとか、心に残っていると
   言われることが一番うれしいじゃないですか。

――はい。

桜林:その映画が例えば、
   なんとか賞を取ることよりも、
   たぶんその言葉のほうが嬉しいわけですよね。
   私もたぶんやってて「すごく感動しました」
   とかって言われるためにやってるのかな、
   みたいな感じはありますよね。

――ということで言えば、取り組むべき仕事が、
  自分の内的なとこにある人と自分の外にある人と
  2種類あるような気がして、
  ……例えば、抽象画家は自分でも
  言葉に表せない感情を発露させることだと思うんです。
  それも素晴らしいし、一方で、いろんな関係性の中で、
  問題点を感じて、
  そこに向かっていく仕事もあるじゃないですか。

桜林:たしかに。

――どちらかというと、
  そういうことなのかなと今日感じました。


桜林:うんうんうん、そうですね。
   なんかね、変な話、震災の後に自衛隊の
   活動を書いていて、毎日締切があって、
   とても書くことなんて出来ないだろうなって
   思ったんだけれども、憑りつかれた様に書いてたの。
   だから、これは私が書いてるんじゃないと思って。
   よくわからないけど書いてるみたいな(笑)。

――何かに書かされている感覚ですか。

桜林:書かされている感じですね。

――そういうお仕事、素敵だなって思います。

桜林:いや、でもおもしろいな。こういう出会いも。

――今日は、ありがとうございました。

桜林:ありがとうございました。



編集後記

今回は、縁あって、
『防衛ジャーナリスト』の桜林美佐さんに、
お話が聞けました。

お会いする前は、なんだか緊張していたのですが、
インタビューするうちに、すぐにナーバスな気持ちは
どこかへ行って、楽しくお話をうかがえたことを覚えています。
彼女の人柄がそうさせてくれたのだと思います。感謝です。

現在、なにかと『防衛』をめぐって、
かまびすしいやりとりがなされていることは、
事実としてあります。
僕のナーバスさが、どこから来たのかと言えば、
そのことが念頭にあったからなのかもしれません。
ただ、インタビューの中でもありますが、
思想信条やこだわりということを一旦横に置き、
「仕事」というキーワードでお話をうかがえば、
教わることがたくさんありました。
特に印象に残ったのは、「使命」という言葉です。

桜林さんは、ご自分では否定されるかもしれませんが、
問題意識の高い方だと思います。
というか、問題をみつけることが上手なのかもしれません。
しかも、それを放置しないところが、
彼女のすごさだと思います。
こういうと、また、ご本人は、「たまたまです」と
ご謙遜されるかもしれません。
が、少なくとも、
仕事に対するこんな取り組み方があるのかと、
痛感させられたことは事実です。

みなさんは、いかがだったでしょうか。



プロフィール:桜林美佐

職業:防衛ジャーナリスト(日本の防衛政策を取材・執筆)
出身地:東京都
生年月日:昭和45年4月26日
最終学歴:日本大学芸術学部 放送学科
趣味・特技:乗馬 ( 学生時代に障害飛越競技出場 ) 創作朗読
防衛省「防衛生産・技術基盤研究会」委員
内閣府「災害時多目的船に関する検討会」委員
防衛省「防衛問題を語る懇談会」メンバー等を歴任

大学卒業後、テレビ番組ディレクターとして『はなまるマーケット(TBS)』など、多数の番組制作に参加。また、構成を務めた平成18年5月放送『ニッポン放送報道特番「夢叶う日まで ~ 割りばし事故は問いかける」』が、平成18年日本民間放送連盟賞”NAB Awards 2006”ラジオ報道番組部門 「優秀賞」>>第44回ギャラクシー賞(平成18年度放送批評懇談会主催)『ラジオ部門優秀賞』を受賞。>>平成18年には自身初のノンフィクション『奇跡の船「宗谷」』を並木書房より出版。

平成20年5月からニッポン放送 『上柳昌彦のお早うGood Day!』「ザ・特集」のリポーターを務める。平成20年6月からは「撃論ムック」に連載する傍ら、産経新聞社「月刊 正論」などにも寄稿。平成20年にノンフィクション第2作『海をひらく - 知られざる掃海部隊 -』を並木書房より出版。平成21年8月7日『終わらないラブレター - 祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」をPHP研究所より出版。構成を務めた『ニッポン放送報道スペシャル 時効という名の壁~未解決事件遺族の願い~』が平成21年日本民間放送連盟賞 ラジオ報道部門「優秀賞」を受賞。平成22年4月~8月まで、『フジサンケイビジネスアイ』にて「防衛産業のいま」を連載。平成22年8月7日『誰も語らなかった防衛産業』を並木書房より出版。平成23年3月~秋まで夕刊フジ『誰かのために~東日本大震災と自衛隊』を連載。平成23年に『日本に自衛隊がいてよかった』を産経新聞出版より出版。平成24年3月1日『ありがとう、金剛丸 ~星になった小さな自衛隊員~ 』をワニブックスより出版。平成24年4月~、夕刊フジ『ニッポンの防衛産業』を連載開始(毎週月曜日掲載)。平成25年には『武器輸出だけでは防衛産業は守れない』を並木書房より出版。





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