芳賀薫さんへのインタビュー、第三回です。
仕事人が普段、どのように、研鑽を積んでいるのか、
非常に、興味があります。
芳賀さんの、普段のトレーニングについて、聞いてみました。
それでは、今回も、滋味溢れるお話をうかがいましょう。
(文/構成 いながききよたか)
Profile:芳賀薫(41歳)
東京都国分寺市出身
1997年 武蔵野美術大学映像学科卒
CM製作会社ピラミッドフィルム企画演出部を経て、
2004年よりTHE DIRECTORS GUILD に
創設メンバーとして加わり現在に至る。
作品
・キリン澄みきりCMシリーズ
・野菜生活CMシリーズ
・脱臭炭CMシリーズ
・ミニドラマ「階段のうた」season1(TBS) など他多数
第三回
~戻るように考える~
――じゃあ、なんかちょっとインタビュー的なこと
聞いてもいいですか?
最初にやった仕事って覚えてますか?
芳賀:覚えてる覚えてる。
CMじゃないのでいうと、
最初は、店頭用の商談用ビデオで、
某メーカーのアイスを全部紹介するってやつで、
それを、当時のお笑い二人組みたいなのが決まってて、
これがつまんないのよ。
なんだったっけなぁ、ほんとつまんないの。
いろいろ彼等の映像を見たけど、
つまんないなと思って、
俺がいろいろ小ネタを考えて行くんだけど、
すべてつまんなくするのよ。
このほうがええやろ?みたいなことで。
――関西の方たちだったんですね。
芳賀:そうそうそう。
なんつったっけな、もう忘れちゃったんだけど。
――今は、もういない
芳賀:いないいないいない、当然いないんだけど。
当時も、別に出てもいなくて、
でも、一瞬なんかあの、
なんだっけ、タモリがやってた、
バカパクとかそういうやつ、
――ボキャブラ天国ですか?
芳賀:そう、それにちょっと出たりしてたんだけど、
全然面白くない人たちなのよ。
俺も若かったから、
なんで、こんなつまんなくなるんだろうって思いながらも、
現場ではさ「そのひとたちの方が笑いのプロだから」
とか偉い人たちに言われて、
信じて撮るしか出来なかった。
でも、編集して見せたらさ、
「芳賀くん、なんで、こんなにつまんないのかな?」
とかって言われるわけじゃん。
「えー、あなたたちが、言うこと聞けっていうから、
こうなったんじゃん」って思うけど、
――言えないですよね
芳賀:言えないし、
しかも自分よりぜんぜん年上のプロデューサーが、
「すいません、すいません」みたいになっててさ、
「なんじゃこりゃ!」って思った。
――それが、初ディレクション?
芳賀:そう、それが初。
CMの初は、意外とよくて、ローソンだったんだよ。
そんときは、とにかく俺は姑息だから、
演出コンテ書く度に、
それまでに会った先輩ディレクターたち全員のところに
持ってって「どうしたらいいすかね?」って
聞いてまわってた。みんないいこと言ってくれるのよ。
「ここは寄りも撮るって言った方がいいよ」とか。
「ここは引き絵の方がいいんじゃない?」とか。
たくさん意見を聞いてきて、
まるで自分が考えたかのように出してた。
で、ローソンやって目立ってる今がチャンスだと思って、
自分はもうディレクターだって、売り込みまくったね。
――実践的な仕事流儀ですねぇ。面白いですねぇ。
芳賀:そう。ひとつの仕事は次の仕事を呼ぶと思うね。
わりとと若い人みんな、
「この仕事はつまんないから力抜こう」とかって
調整する傾向があるけど、それは、絶対よくない。
若い頃とか当然、痛い目にもあうよね。
まぁ、今だってあうよ。
だけど、やらないと、次につながらない。
――痛い目っていうのは、例えば?
芳賀:例えば、さっきの僕の初仕事みたいにさ、
タレントさんの意見でいこうよってなったりさ、
クライアントさんの一言で、こっちの方が面白い、
ってなったりするんだよね。
でも最後、「監督がこれでオッケー出してるんで」
ってことになるんだよ。
それまでの経緯なんか無かったみたいにね。
だから、どんな経緯があったって、
オッケー出したのは、自分だってことからは
逃げられないのさ。
で、大切なのは、それでもずっと守り通したものがあるか?
ってことなんだよね。
それがあって、オッケー決めてれば、
自分が思い描いた結果じゃなくても、
及第点だと思えるものに、
きっと出来るんだと思うんだよね。
――なるほど。
それぞれに、仕事の仕方ってあるじゃないですか。
それに対する普段のトレーニングとか
勉強とかってありますか?
そういうのにすごい興味あるんですけど。
芳賀:普段のトレーニング…
――例えば、漫然とテレビを観たりするって
ことだったりとか。
芳賀:ふたつあって、ひとつは、戻れるように考えること。
どんな時も
「分からなくなった場所が分からなくなること」
がよくなくて、こう考えた、その次にこう考えた、
こう思った、で、その先にふたつのアイデアが出た、
とかっていうふうに、
考えた道筋を、きちんと頭の中で、
樹形図にしておくといいんだよね。
その訓練はすごいした。
どうしてこうなったんだっけ?って。
しょっちゅう戻ったり、
また考えたり、行ったり来たりしながらの思考って、
ディレクターみたいな最後に判断する人は、
特に必要なんだよね。
何故この判断をしようとしてるのかってこととか、
今どこで自分が迷っているのかとか、
俺はその理由を、割りとオープンにするんだけど、
そんときに、オープンにされても、
意味が分んない言い方をされても困るじゃん。
「俺、コレも好きだし、アレも好きなんだよねぇ」
みたいなこと言われてもみんな困ると思うんだよね。
好きの話かよ!みたいな。
それよりも、
「こうするとこうよくなると思うんだけど、
こうするとこういうネガティブもあるよね、
どっちがいいんだろう?」っていう話がしたいんだ。
撮影方法で迷った時に、
それをスタッフみんなと共有しとくとさ、
撮影部じゃなくて、ヘアメイクのアシスタントから
「私こういうことがあったんですけど~」っていう話が
聞けて、じゃ、こっちのアイディアがいいじゃん!
っていうことだってあるって思うから、
俺はいつも、オープンにするのね。
だから、まず、いつでも考えが戻れて、
自分が混乱しないようにするってことが、大事だね。
アイディアの出所に優越なんてなくて、
なるべく、アイデアは広くから出る方がいいと
思っているから、考えたことも、
それが分らなくなったポイントも、オープンにする。
迷ってたら、本気で迷ってるんだな。
無茶言ってても、本気で無茶言ってるんだな、って、
みんなに分かる方がいい。
――なるほどなるほど
芳賀:もう一つは、説明するってことがすごく大事だから、
英語的に話すっていうこと。
「I think なんとか、because なんとか」っていう風に。
これは作家先生にあんまり向かない話かな、
常にそうだと、すごく味けないからね。
でも、ディレクターとしては、あと、もしかして、
制作の現場もそうだと思うけど、
「僕はこれが正しいと思う。何故なら」って、
考えとその理由をセットで話すことが大事。
でも、日本語的に話すと、例えば、「これは白いよねぇ?」
「ホント白いなあ」とかって偉い人が言うのを、
誰かが慮って、白いってことが、いいって言ってんのか、
悪いって言ってんのか、想像してさしあげるみたいな、
謎の構図が生まれちゃうじゃない?
それは、いたるところで見られる現象だと思うわけ。
だから、僕は、人に対しても、
「何故ですか?」って聞くの。
それに正直に答えない、すぐ迂回して
「いや、何故ですか、ってねぇ……」
みたいな人いるじゃない?
(一同笑)
――いるいる
芳賀:で、「なんとかさんが言いたいのはね、
こうだと思うんですよねぇ。
じゃぁまっ、そういうことで」みたいな、
それにおもねる人がいるじゃない?
それはそれで、俺は、客観的にオモロイと思うけど、
物事を建設的に進めるためには、
全然だめだと思うんだよね。
だからいつも、意見とその理由をセットにして
言おうっていうのを、
スタッフみんなのルールにしようとしてる。
でも、これって、普段の訓練が必要なんだよね。
彼女だろうが、友達だろうが、
「え、なんで?なんで?」って聞かれたときに、
そのなんで?にちゃんと答えるとか、
人の言っていることに疑問を持ったときに
ちゃんと「何で?」って聞いて、
「あっ、そうなんだ、じゃ、こう思ってんだね」って、
ちゃんとその人を理解する、
そういうコミュニケーションの練習をしてないとね。
――確かに。この話は勉強になりますね。
芳賀さんプレゼンめちゃくちゃうまいですもんね。
プレゼンの場には、一緒に、1、2回しかいないけど、
上手な言い回しするし、
人が結局それで「そうですね」って納得しますもんね。
芳賀:多分、「いやいや」とか「ちがうな」って
言わないんだと思う。相手の意見を否定して、
自分の意見を言うと、
もう、相手の意見は土台にのってない
っていう話になっちゃう。
それを、まずは「なるほど」っていう風に聞いて、
「それは、こういう意味でおっしゃってるんですよね?
であれば、こういうアイデアもある」とか。
「そこには、気づいてらっしゃらないかもしれないけど、
こういうネガティブもあると思うので、
例えばこういうアイディアも……」とか。
やっぱり、プレゼンというものが、
漠然と全体的にうまいんじゃなくて、部分だと思う。
部分に関して、
さっきの、「考えとその理由をセットにする」
っていう基礎をずっとやってるだけだと思う。
つまり、相手の意見に理由がついてないときには、
「それは、こういう理由でおっしゃってるんですかね?」
ってこっちが言ってみて、
「そうだ」とか「いや、違う」とかって返ってきたら、
「じゃ、もっと言うと、こういうことですかね?」
っていうふうに、相手の意見の理由を
引き出してやればいい。
それが見つかったら、
「であれば、こういうアイデアもあると思うんですけど」
って、相手の意見をふまえて、自分の意見や、
アイデアとかってのを、出すような、
出すっていうより、
相手の意見の中にみつけていくような、
癖をつけるというかね。
――これは、勉強になる話ですよね。
芳賀:作家先生にしては、あんまりね、関係ないすよ。
――すごく、勉強になりますよ。
シナリオもそういう世界だと思いますよ。
台詞はちょっと違うかもしんないけど、
ほとんどを具体的イメージで、
結果と理由みたいなことを
ワンセットで伝えないといけないから。
芳賀:そういうとき、多分、二人なんか、
英語がさぁ、ベースにあるんだったら、
やっぱり、英語に一回するっていうのとか、
すごい便利だと思うんだけどね。頭ん中で。
――このあいだ、シナリオで、
セリフを、一回英語にして日本語に訳すって
いうことをしたんです。
宇宙人が日本語を話すっていうときに、
やってみたんですけど、すごく面白かったんですよ
芳賀:だから、ホント、映画とかもさ、
日本語字幕あるじゃない。
やっぱ、すごい優秀な翻訳者のは、
ぜんぜん違うじゃない。
日本人として、すごい納得できるようにできてるよね。
――面白かったのが、翻訳家の柴田元幸さん、
よくポール・オースターとか訳されている方ですけど、
頭から訳していけって言うんですよね、英語を。
芳賀:全部読まずにってこと?
――要は、よく、中学校の頃って、
逆に全部訳せっていうじゃないですか?
芳賀:あー、文法が違うからね。
――うん。
たとえば、中学とかって「I have a pen」だったら、
「ペンを持っている」みたいに逆転させないと、
日本語になんないよーみたいな教え方だったけど、
「僕はもっている、ペンを」って
具合にやっていくと結構面白い翻訳になるみたいな。
より、正確になるみたいな。
芳賀:なるほど。
慣れちゃったら、それが正確に見えるかもしれないね。
――転倒してるなーって。
頭から訳した方が文学的に見えるっていうのも。
芳賀:そうだね。
――日本語で、意見とか結論みたいなのをちゃんと提示して、
「何故なら」みたいなことをちゃんとワンセットで言うって、
ものづくりの現場ではものすごく大事ですよね。
芳賀:そう思うね。
代理店に出向してたころ、
俺がつかせてもらってたクリエイティブディレクターの人が
常にそれを大切にする人で、そこがうまかった。
ちゃんと人の意見を聞いて、
相手が、当時の俺みたいなペーペーの若者だろうが、
意見ってものには優劣をつけないわけ。
その人にとって、
「こう思う。なぜなら」のその「なぜなら」が、
「なるほどね!」って思えれば、
それはもう、誰が言おうといい意見なわけ。
すごくフラットなんだよね。
その代わり、頑張ってこなかったり、
きちんと考えてない意見に対しては、
「今、お前、恥ずかしいこと言ってるよ」
ってはっきり言うわけ。
「もう一度、みんなの言ったことを考えてこい。
その上で、自分の言ってることが正しいと思うんなら、
それでいい」みたいな。
その、考える技術みたいなことを
そこで教わったんだと思う。
――そういう環境で、仕事ができた、っていうのは、
すごいいいことですよね。
で、今、そういう場を作ってるわけじゃないですか。
芳賀:そうね。
だから、俺から、若者に譲れるものって、
「考えるっていう技術」だと思ってて、
『ファーム』にもそれを意識してるんだけどね。
でも、映像の作り手としては、
個々に個性があると思うしね。
出来上がった作品に対する意見は、
そんなシビアに言う必要ないと思ってる。
「いいね」とか、「あそこ俺は好きだったよ」っていう、
そういう感覚的なことになるんだと思うんだけど、
自分が譲れることはそういうことかなって思うから、
聞かれれば、理由は自分なりに説明できるように
話してるつもりかな。
(最終回に続きます)