意識高い系


最近「意識高い系」という言葉をよく聞きますね。
すごく使い勝手のいい言葉だと思います。
相手を黙らせる攻撃力の高い言葉でありながら、
今の世相を的確に切りとっている、「ような」感じがします。
僕も、いわゆる「意識高い系」がすごく苦手です。
でも、この「意識高い」の本来の意味ってなんなんでしょうか。
突然、僕はわからなくなってしまいました。

昔のこと、大学時代、
勉強もせずにぶらぶら遊んでばかりいたころの話です。
僕は、友だちの家に入りびたってばかりいました。
その家は友だちの友だちのそのまた友だちが、
ひっきりなしに出入りして、いろんな人が交流していました。
その中に思い出深い人物が一人います。
名前も忘れてしまいましたが、その人物は同い年の女の子で、
いわゆるパンク少女でした。
今で言うと、「エモ」ってところですかね。
勉強の有益性を感じられず、
高校もドロップアウトしただかで、
なんだか「活動家」的なおじさんと同棲してるとかなんとか、
世の不条理を嘆き、環境汚染を案じ、
月に一本木を植えていると誇らしげに言うのです。
その「木を植える」という行為が彼女の自尊心を
屈強に支えている様子でした。
僕はなんだか違和感を感じ、
「木を植えると、不条理は解消されるんですかね」と、
思わず口が滑ると、彼女は憤慨した様子で、
「君は人間を本当に愛したことがあるの?」と悲しげに、
完全に斜め上なことを問うて来たので、
「だめだ、こりゃ」となってしまいました。
彼女なんかは、
きっと「意識高い系」だったんだろうなと思います。
でも、本当にそうなんだろうかとも思っちゃうんです。

たまに、僕自身が「意識高い系」とか、言われてないかなと、
怯える時があります。
僕の職業は、一応、「脚本家」となっています。
「家」がつくと、なんだかエラそうでイヤなんですが、
まあ、わかりやすいからいいやと諦めています。
「シナリオライター」と言う時もありますが、
個人的に言葉の座りが悪いような気がして、
使うことは少ないです。
で、この脚本家、たいがい「これ、書いて」と言われて、
書くことが多いと思います。
で、「書いて」と言われた以上は、いろいろ考えます。
調査します。勉強します。観る人のことも考えますし、
それよりも、どうしたら「書いて」の内容が面白くなるか、
今描く意味があるのかを追求します。
どうしたって、いろんなことを掘り下げなくてはいけません。
どうしたって、「意識を高く」しなくてはいけないのです。
この「意識が高い」状態は、もしかしたら、
「意識高い系」という言葉の本意とは
少しずれているかもしれません。いや、そう信じたいです。
でも、本来、「意識高い系」という言葉は、
きっとパフォーマンスだけで中身のない人、
なんだかかっこよさげだけど実は恥かしいことを
臆面もなくできる人達のことを指していたように
思うのですが、字面が示すように、
いつしか深く掘り下げたり、
とあるジャンルを再評価、批評、批判したりする人のことを
指すということにならないとも限りません。
そして、そういう意味での深く掘り下げる「意識が高い」人を、
時には排撃し、蔑むように使われていることも、
今現在確かにあると思うんです。
「意識高い系」の誤用ですかね。
というか、誤用と言っても、
もともとその言葉自身が持っている普遍性が低いし、
はやりの言葉ですから、仕方ないんですけど。
でも、僕は時に思うわけです。
意味のあやふやな流行り言葉って、
用法容量を守って使わねばならないなぁって。
ようは、新薬みたいなものですよね。
臨床経験が少ないだけに、効能は保障されているが、
副作用もまた未知、みたいな状態でしょうか。

少し話は変わりますが、先日ラジオを聞いていて、
興味深い言葉を知りました。
新日本プロレスの社長に就任した
ブシロードの社長木谷高明さんの言葉らしいです。
「ジャンルはマニアが潰す」
この言葉を聞いて、僕ははっとしました。
確かに、マニアの排他性って、
ジャンルの拡がりみたいなものを阻害しますよね。
ジャンルのムラ化というか。
そこで、なにかそのジャンルに革新なり批評なりを
加えようとする「意識高い系」
(文字通り本当に意識の高い人)が
現れると、「アイツ、意識高い系だからwww」
みたいに言われるのを見ると、なんか釈然としません。
意外とマニアって、蓄えた微々たる知識に安住したり、
そこからお外へ出て行こうとしないですよね、(自戒も含め)。

いずれにしろ、それがマニアでも、
ただのファンでもいいんですが、
無知や、既存のものに安住する人、
自分が欲しいものを与えてもらえないとキレる人達が、
知識や革新や批評をバカにする傾向があることは
本当に嘆かわしいと思います。
そこで、あえて僕は「意識高い系」で
行くことも辞さない構えであります。
中身のない「意識高い系1.0」ではなく、
深く掘り下げる「意識高い系2.0」として。


(いながき きよたか)




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