いながききよたか通信 六月号


先週から、雨、雨、雨。
雨だと、まったく洗濯ものが乾きません。
あと、道が混みます。
天パなので髪がまとまりません。
頭痛持ちにとって、低気圧は天敵です。
早く晴れませんかね。
でも、梅雨が明けると、本格的な夏が始まるんですよねぇ。
ああ、暑いのもやだしなぁ。
そんな憂鬱な気分は、ぜひ、これを見て、ふっ飛ばしましょう。
今夜は第二話です。

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(高城亜樹主演『SAVEPOINT』テレビ東京6月5日より放映)
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全四回ということで、二話にしてすでに物語は、
山場へむかって動きだします。
それにしても、高城亜樹さんは、アクションが上手でしたね。
そしてお芝居も撮影中にどんどん磨きがかかっていくようでした。
そのお芝居のターニングポイントとなるようなシーンが
この二話に描かれています。
このシーンを機に、彼女は一気に女優らしくなったのでした。
必見です。

さて、前回は、ひとまず一話を書きあげた
というところまでお話しました。
そうです。書き上げたということは、
他人に読んでもらわねばなりません。
僕にとっては、この、読んでもらうのが、
一番ドキドキする瞬間なのです。

書かれたものは、それが、自家薬籠中のものとするような
俺ポエムじゃない限り、
いずれ他者に読まれなければならない運命にあります。
言葉は伝達の手段です。
そしてそれは人に伝えることで洗練されてきました。
洗練されるためには、他者に読まれなければなりません。
というか、評価を受けなければなりません。
書かれたものは、毀誉褒貶、さまざまな意見にさらされます。
もちろん、それは書かれたものに対する評価のはずですが、
ともすると書いた本人の人格への評価にさえ
聞こえてくる場合もあります。
いやぁ、怖いですねぇ。
「面白い」だったら、嬉しいけど、
「つまらない」だと、へこみますねぇ。
まるで、僕という人格が「つまらない」かのような気分に
なってしまいますからねぇ。
もちろん、いかにキャリアが浅いとはいえ、
一応プロのはしくれでやってきた以上、
これまで自分の書いたものに対する評価は幾千と聞いてきました。
吐露してしまえば、
中には、「こいつ、殺したろか」と、思った相手もいました。
ただ、後から考えれば、
そんな辛い評価をいただいたからこそ、
頑張れたとも言え、今では感謝しています。
だから、最近では、
そこにどんな偏見やバイアスがあったとしても、
他者の評価、それがすべてであると、
ようやくわかりかけてきました。

この一連のこと、なにかに似ているんですよね。
そう、『恋』です。

その昔、(誰だか失念しちゃったんですが)、
「シナリオは監督へのラブレター」と書いているのを読んで、
膝を打った思い出があります。
確かにそうなんですよね。
本当に、シナリオはラブレターに似ています。

実は、シナリオは、
(文章で書かれた表現物を文芸と、
ひとまず、ここでは呼ぶことにして)
文芸の中でも、少し特殊な子です。
大方の文芸は、不特定多数の読者に向け書かれてあります。
よく外国文学などで、一番初めのページに、
『某に捧ぐ』とか書いてありますが、
あれは別に某だけに読まれればいいと
思ってるわけではありません。
できれば、たくさんの、世界中の人々に
読まれたいと思っているはずです。
少し、気どって言えば、
文芸のレゾンデートルは不特定多数に読まれることである。
なんて感じになるかもしれません。

一方、シナリオは、事情が少し違います。
シナリオにとっての読者は、
不特定多数ならぬ特定限定数となります。
不気味ですねぇ。
でも、考えればこれは当たり前のことで、
シナリオは、一般の読者というものを、
最初から想定していないものなのです。
誰を想定しているかというと、それはスタッフです。
つまり、シナリオは、
その作品に関わる人々だけに向けられて
書かれたものだというわけです。
シナリオは、生めよ増やせよ式に、
だれにでも読まれ継がれることを願って
書かれる小説や文学作品とは違い、
狙った読者にピンポイントで
届かねばらない宿命を帯びているのです。
『愛する人に届け、この想い!』
がたくさんつまってるんですねぇ。
まさにラブレターです。

もう少し突っ込んで言うならば、
シナリオは、その本質の部分において
『作品』ではないという宿命を背負っています。
(中にはレーゼシナリオというジャンルがあるのですが、
それはまた別の機会に)
これは、あっけないほど、自明なことなのですが、
油断していると見落としがちな真実です。
未だ作られない、しかし今まさに作られようとしている
映像作品の設計図、それがシナリオであり、
それを必要とする人は、
今まさに作られようとしている作品にたずさわる人々のみ、
無論、設計図は鑑賞物としての
『作品』たりうるはずがありません。
たとえて言うなら、シナリオは、
楽譜みたいなものでしょうか。
楽譜を見ていても音楽は聞こえない。
けれど、楽譜がなければ、音楽が奏でられない。
そんな感じに近いと思います。
(この辺のお話は、本当は、もっと複雑な事情があり、
一概には言えないところがあるのですが、
それもまたの機会にしましょう)

ともあれ、初お披露目する時の気持ち、
想像できるでしょうか。
片思い中の好きな女の子に思い切って、告白する。
さて、返答やいかに。
時には、プロデューサーから
「ちょっと待って、考えさせて」とか言われます。
そんな時は、もうふるならふるでいいから、
ひと思いに、早く一刀両断してくれ!
という気分になったりします。
そして、大体「考えさせて」の場合は、
シナリオも恋も、うまくいかないことが多いですね。
また、時には、監督から
「ひとまず、あずからせてください」とか言われます。
これは、言い換えれば
「友だちでいましょう」みたいなことでしょうか。
いわゆる、相手を傷つけないことわり文句ですね。

さて、今回、この『SAVEPOINT』の場合は
どうだったでしょう。
『恋』にたとえるなら、
まず意中の女の子の友だちから攻め、
根回しをしたおし、
断れない状況を作って、
恋人の座を射止める、
そんな感じでした。
まず、お誘いをいただいた時点で、
放映日がすでに決まっていて、
それもかなり喫緊に迫っている状況。
これは、絶対にふられるわけにはいきません。
なので、まずプロデューサーと共に、
意中の相手の誕生日、
血液型や星座は言うに及ばず、
趣味趣向、
どんな男性がタイプか、
どんなファッションが好みか、
音楽はなにを聞くか、
これまで何人と恋してきたか、
いろんなことを調査し、入念に傾向と対策を練って、
なにがなんでも恋人になるんだ!
という強い決意を胸に、一話をしたためたのでした。
果たして……。
監督は気に入ってくれたのでした。
ほっと胸をなでおろし、各方面のスタッフからも了解がとれ、
ラブレター大作戦はひとまず成功を収めたのでした。

一話のシナリオの方向性が決まれば、
二話三話最終話と、比較的楽しみながら書けるというもの。
なにせ、すでに恋は成就したばかり。
なにをするにもトキメクもんです。

考えてみれば、シナリオライターは、
いつもラブレターを書く側なんですね。
たまには、ラブレターをもらう側になってみたいもんです。
が、実は『恋』にも、告白してばかりの人と
告白されてばかりの人の2パターンあるんじゃないでしょうか。
僕は、実生活でも、告白ばかりしてきた側の人間です。
だから、万年ラブレターを書いているシナリオライター
という仕事が苦にならないんでしょうね。

さて、シナリオは書きあがりました。
『恋』も成就したし、めでたしめでたし。
とは行きませんでした。
シナリオが出来上がった時、
それがシナリオライターの到達点だと、
前々回に書いたかと思いますが、
今回は、決してそうではなかったのです。
シナリオライターとしての仕事が終わった僕に、
プロデューサーから辞令が下りました。
「よし、シナリオは終わったな、
明日から君は、制作部だ!
制作部として、現場へGOなのだ!」
シナリオライターが、制作部へリクルート?
しかも、自分が書いたシナリオの現場に?

それは次回のお話に回しましょう。

(いながき きよたか)




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