いながききよたか通信 六月号


五月って、こんなに暑かったでしたっけ?
と思うくらいの月末を過ぎると、あっという間の六月。
そして、まだおんもは灼熱のような暑さ。
仮に、今、撮影だったら、
僕はとっくに消し炭になっていたことでしょう。
冬には、夏まだ?と思うくせに、
夏が来ると、冬まだ?と思う性格を直したいです。

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(高城亜樹主演『SAVEPOINT』テレビ東京6月5日より放映)
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さて、いよいよ本日初回放送です。
当サイトの更新日が木曜日、
そして、『SAVEPOINT』の放送も木曜日、
よくできたもんです。
内容は、いわゆるサスペンス。
高城亜樹ちゃん扮する主人公アキが特殊警護官となって、
とある男を守りながら、移送するというストーリー。
初回からアクション満載になっております。
ぜひ、お楽しみください。

と、今、この原稿を書いていて、
こんなにサスペンス&アクション映画が大好物なのに、
これまで、そのジャンルを書く機会が
なかったということに気づきました。
やっぱり好物とお仕事はなかなか両立しませんね。
でも、これを機会にもっと書いていきたいと思っております。

先週は、締切まで6日間という時間を前に
呆然としている4月23日、
というところで、お話を終えました。
さて、なーんにもストーリーが決まっていないのに、
あと6日で、30分ドラマを四本、
完結させなければならない状況を前に、
あなたはまず何をするでしょうか。
いや、キーワードは決まっていました。
『SP』、
そうです、あの警視庁警備部警護課に
所属する警察官を指す呼称ですね。
必死にSPについて資料を探す、
もしくは、過去に読んだ警察関連小説を洗い直す、
ネタになりそうな映画やドラマを観る、
はたまた、急いで警察に電話して、取材させてもらう……。
もちろんこれらはすべてやって然るべき行為です。
ただ、おそらく、資料を探し、ネタを探し、いざ取材、
という時点で、ブッブー、タイムアップ、
となるのがオチのような気がして、
どれも恐ろしくて手が出せずにいました。
そこで、呆然としている僕は、
事務所のソファにごろんと横になりました。そして、寝ました。
そう、寝たのです。
「あきらめたら、そこで終わり」
というかの有名マンガに出てきたセリフが
聞こえてきそうですが、
僕としては、全然諦めているつもりはありません。
むしろ、敢然と締切に立ち向かうつもりで、全力で寝たのです。

話は変わりますが、執筆における一番初めの出来事は、
『着想』ではないでしょうか。
インスピレーションと言ってもいいかもしれません。
要は、物語の種ですね。
これがあるかないかで、執筆工程は180度変わります。
着想があれば、なんとか書けます。
ですが、着想がなければ、全く書けません。
無論、『着想』だけでは書けないことは
ここに留意しておきましょう。
若い頃は、インスピレーション、湧いた!
これ面白くねえ?
わーい、
と、着想がすべてだと勘違いしがちなのですが、
物語の種は、丁寧に手をかけて、
育ててあげなければ芽も出ず、
ましてや美味しいフルーツにも、
栄養ある野菜にもなりません。
ただ、すべての根本に種があることは事実です。

古来、作家と呼ばれる人々は、
この『着想』を得るために、
自分なりの流儀を見つけてきました。
ルソーはかの有名な『散歩』ですね、
ドストエフスキーは『賭博』でしょうか、
バルザックは『浪費』ですかね、
中には『女』という人もいたりして……。
実のところ、散歩なり賭博なりという、
この流儀自体にはあまり意味がないと思います。
というより、任意だと思うわけです。
作家自身がより『着想』が湧きやすい状態に
身を置くというだけで、
なにをするかは、千差万別でしょう。
でも、逆を言えば、
作家は『着想』を得やすい状態を
見つけなければならないとも言えます。
ある作家がいて、
彼にとって一番『着想』を得やすい状況が、
『女にふられる』とか『病気になる』とか、
『貧乏』だったら、
非常につらいだろうなぁとか思っちゃいますね。
実際そういう人もいたでしょう。
(特に昭和の作家たちは、
『女』、『病』、『貧乏』
三拍子そろった人達ばかりのような……)
中でも『麻薬』とか、
犯罪めいたことでしか『着想』を得られないのは、
きっととても不幸なんだろうなと想像します。
でも、よかったです。僕は、『昼寝』でしたから。
あ!よく考えたら、もしかして不幸なのかも。
だって、いかにも怠惰ですもんね。
傍から見たら、「こいつ、全然仕事する気ねえ」
と思われることしばしばですし。

しかし、僕にも、言いたいことがあります。
結構、昼寝も難しいんだと。
昼寝の極意を伝授しましょう。
実際、昼寝しながら何をしているかというと……、
これはいわく言い難いのですが、
自らなにかをするというより、
集中して脳みそが勝手にストレージから
いろいろな情報を引っ張りだしてきている感覚に近いのです。
人間の脳は、経験したほとんどの事を
記憶しているとどこかで聞いたことがあります。
それと同時に、脳みそには、
もっとスーパーすごい機能が付いています。
それは、『忘れる』という機能です。
(脳が勝手に、記憶を取捨選択して、
データをデリートするなんて、
よく考えたら、すごくないですか?)
感覚値では記憶の8割方
忘れているのではないかと思うのですが、
その忘れている8割の部分から
使えそうな情報を集積、構築して、物語に援用する。
これが、昼寝の極意です。
ウソです。ごめんなさい、ただ寝ているだけです。
でも、不思議と一時間くらいで起きて、
なんとなく考えがまとまってるんですよね。
案外、情報集積、構築、援用うんぬんというのも、
ほんとだったりして。
実際の話、あるシナリオライターさんも
書き詰まったら寝ると仰っていたそうです。
他にも、執筆と睡眠、一時間ごとという人が
いるとも聞いたことがあります。
だから、もし、昼寝しているシナリオライターを見つけたら、
起こさず、そっとしておいてあげてください。

さて、昼寝から起き出した僕は、しばらくぼーっとします。
ちなみに、寝所の隣には、
ペンとメモ用紙が置いてあります。
眠りについては、はっと起き出し、
思いついたことをメモしてはまた眠るを繰り返し、
出来上がったその俺的メモを持って、
ぼーっとした頭で眺めながら、
「なんだこれ?」とか、思います。
そんな支離滅裂な断片を、解きほぐし、
「あー、なるほどね、僕、こんなこと考えてんのね」
という具合に考えをまとめ、ようやくパソコンに向います。
次にやることは、ワードファイルを開き、
『柱』をぶったてて行きます。
『柱』というのは、シナリオにおける場所の事ですね。
場所をずらーっと並べて、
その場所で起こるだろう出来事を
『柱』の中に書き加えて行きます。
すると、どうでしょう、シナリオの流れが見えてきます。
なるほどね、ここから始まって、
こういう事件を経て、ここで終わるのね、
ってな具合におぼろげながら、
『筋』が見えてくるわけですね。
それをプリントアウトして、
にらめっこしながら、パズルします。
『柱』を入れ替えたり、削除したり、加えたりしながら、
おおよその青図を作ります。
これを『ハコ』と呼びます。
シナリオは、映画の設計図ですが、
言うならばその設計図の設計図ですね。
「よし、できた!」と、ひとまず安堵した所で、
ふと僕は、何度目かの眠気に襲われます。
「うーむ、眠い」、そして再びソファへドスン。
また眠るわけです。
今度は、設計図の中で、
いかにキャラクターが動き出すか、夢見るために。

(※書き加えておきますが、ここに書いている方法は、
緊急時における対処法となります。
いわば火事場のクソ力なわけです。
本当は、もっと綿密に準備すべきですので、あしからず……)

そして、夢の中で、
僕はこれから書くだろうシナリオの登場人物の
それぞれになりきり、自由闊達に物語の中を動きまわります。
『SAVEPOINT』で言えば、
時にアキになり、時にシロウになり、時にタカギになり、
なりきって喋ったり、叫んだり、
落胆したり、喜んだりするのです……。
二時間後、再び目を覚ました僕は、
パソコンに向います。
こうして、パソコンとソファを行ったり来たりしながら、
最後には一気呵成にシナリオを書きあげるというわけです。

書きあげたら、
今度は、人に見せなければなりません。
はっきり言って、初めて人に見せる時、
これが一番ドキドキします。
一話のシナリオを書きあげた僕は、
監督を始め関係者の方々に読んでいただくべく、
メールしましました。
その反応やいかに……。

それは次回のお話に回しましょう。

(いながき きよたか)




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